214 新・魔界水滸伝 銀河聖戦篇 3

1996.02/角川文庫

<電子書籍> 無


【評】うな


● ようやく動きはじめそうなスペースオペラ


 雨の惑星カンディングラスにあらわれ、原住民を扇動する謎の預言者の映像を見た雄介は驚愕する。それはまさしく弟の竜二であった。帝国の部隊とともにカンディングラスにおもむく雄介。だがそこにはおそるべき敵が待ち受けていた――


 前巻の終わり際で「いよいよ戦場におもむき戦いがはじまるのだな」と思ったら、この巻は半分ほどはぐだぐだと会話ばかりで過ぎていくのである。この後の栗本薫の基本ペースであるとはいえ、これには悪い意味でやきもきさせられる。

 思うのだが、この「巻の始まりがいつもぐだぐたした前巻の復習がメインになる」という風習は、単にしばらくそのシリーズを離れていた薫が頭のなかで思い出しながら書いているからそうなっているだけなのではあるまいか? 後の『夢幻戦記』ではより如実なのだが、この復習タイムは発刊ペースが空くほど長くなる傾向がある。読者にとっても前巻の復習はある程度は必要だし、作者もすぐには頭が切り替えられまいからわからないでもないのだが、物事には限度がある。せめて五十ページくらいで終わらせていただきたいものだ。


 そんな感じで前半はあまりストーリーのない状態で進むものの、後半で雨の惑星カンディングラスに上陸するとようやく面白くなってくる。その前段の、機械文明にげんなりしていた雄介が、兵士たちと会うなり意気投合するくだりもベタながら良い。そして現場指揮官のマーカス少佐が副官のようになっていく流れも、グイン・サーガでいつもやっているアレだとは云え良いものだ。マーカスさんが前巻だと大佐って書いてあったことなどどうでもよくなるくらいにこれはこれで良いのだ。(余談だが雨の降る戦場にいるマーカスさんというと戦争の歯車のような気持ちになるのはXBOXユーザーのたしなみであるが、ただの偶然の一致であろう)


 雨が降りつづけ、催眠能力を持つカエル人間が住むカンディングラスも良いし、そこで遭遇する金属を食べ増殖し続ける「宇宙キノコ」の不気味さも良い。ようやくスペオペとしての面白さもまかすことしての面白さも出てきた感じだ。そして別人のようになっている竜二との再会も、物語が盛り上がる予感がビンビン漂ってくる。まったくもう、一巻からこれをやってくれよな、と云いたい。

 が、ようやく本調子になってきたかな、というところで三巻は終わってしまう。明らかに前半の無駄遣いのせいである。

 ともあれ、面白くなりそうな気配が漂ってきたのは確かであり、本格的な物語の開幕を期待しながら、我々は次の四巻へと進むのである。

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