213 終わりのないラブソング 8


1995.12/角川ルビー文庫


【評】う


● そして適当エンドへ……


 ちょっとした誤解がもとで、竜一から電話が途絶えて一週間が過ぎた。二葉は、別れすら覚悟して竜一の組の事務所へと向かうが…。―ぼくのラストソング、ラブソングはもう歌わない。もう誰のためにもラブソングは歌わない。だってぼくのラブソングは三浦竜一に捧げてしまった―。そして二人の愛の神話は、ついに終章へとたどりつく。書き下ろし特別編「エターナル―永遠に―」も収録する感動の最終巻。(公式の紹介文より)


 竜一に職場仲間のニューハーフのことを話したら

「お前はそいつに惚れてるんだ。お前はもともとノンケなんだ。いいのかい? おれはノンケだってかまわず食っちまうような男なんだぜ」

「いいんです、ぼく……竜一さんみたいな人、好きですから」

「嬉しいこといってくれるじゃないの。そうだいいこと思いついた、お前、一緒に住まないか?」

「えー、横須賀にですかあ?」

「男は度胸、なんでもやってみるのさ」

 そんなわけで、終わりのないラブソングの連載はぐだぐだでうやむやのままに終わってしまったのでした。


 本当にもう、なんなんだろうか、このグダグダ展開は。

 この作品、当初はともかく三巻以降は、心がぶっ壊れた少年が、いろいろ周囲に助けられて社会復帰していこうとするけど、一度壊れた心はなかなかうまくいかない、というのを丁寧に描写したかったのだと思う。その社会復帰の心情と過程が「自分は社会に適応してない出来そこないだ」と思っている若い読者の共感を呼び、支持されていたのだと思う。

 でも、それじゃあどうやって更正していくのかと思ったら、竜一と出会ってからはホント男任せにしてふらふらと流されてるだけでゲイバーとかで働き出しちゃう。いや、ゲイバーとか水商売の方を非難するつもりは毛頭ないが、このいいかげんな流れでふらふらとお水の世界にいってしまうのは、救いも悲しみもまるでなく、本当に流されるままの情けなさだけが残る。

 家族との軋轢にもまったく立ち向かおうとはしないで適当に弁護士に任せっきりで、まるで家族が人でなしのように描いて、家族側の混乱や事情を受け入れようともしないままで、助けてくれた周囲の人間にも不義理ばかりをしてろくに連絡もしないし、もう自分勝手の極み。それでいて周囲の人間は無条件に二葉に優しくて、ずるいよ、ずるい。こんなずるい社会の生き方じゃ、感情移入なんてとっくに冷めまくりですよ。だって自分の参考にならないしさ。

 二葉はホントなんの努力もしてない。社会復帰する意欲ナッシング。葛藤もしてない。「おれ本当にホモなのかなあ。この人とずっとつきあっていけるのかなあ」という乙女チックな悩みを抱えてニートしているだけ。甘ったれすぎてまったく応援できない。自分が女じゃないと思ってるなら勤労意欲くらいみせろ。

 少女漫画の世界では、萩尾望都が大長編『残酷な神が支配する』で、普通の少年が義父にレイプされつづけすっかり壊れてしまい、その後なんとか立ち直ろうとするもうまくいかない姿がそれこそ丁寧に描かれていたが、それに比べるとあまりにも甘ったれすぎあまりにもただのオカマちゃんすぎる。


 それでもまあ、極端な話、素敵な旦那さまができて救われてラブラブです、という話なら、それはそれでいいですよ。ラブラブっぷりが面白ければそれはそれでいいものだし。

 でも、うわついてぶつぶつ云ってはいるけど、なんかあんまりラブラブって感じがしないのね、栗本先生は。なんでこんなにラプラブ下手なんだといいたいくらいにラブラブしてない。ただキモいだけ。読者としてはニヤニヤしながら「こいつらバカだなー」と云いたいのに、作者のほうで「これは純愛ですから! 笑いとかないですから!(キリッ)」という感じで、余裕が感じられなくて、ニヤニヤできない。

 そんでもってラブラブおセックス中にまで「ぼくたちはどうなってしまうのだろう……」みたいな不幸ごっこはじめるから、全然うっとりできねえ。

 そもそも竜一も二葉を甘やかすだけだし、甘やかすわりには中途半端なヤクザでまったく甲斐性ないし、ぜんっぜん素敵なご夫婦にみえないし、かといって苦悩している若者たちにも見えない。つまりなんだかようわからんけどおセックスだけはしっかりしてる、楽しみ方のようわからんカップル成り下がっていた。

 で、二葉の方にも別に将来の展望もなく、かといって差し迫った不安や危険もなく、別にラブラブってわけでもなく、漠然とこのままじゃいけないなあ、と思っているだけ。まさにニート。

 こんなんいったいどうするんだよという無内容な展開をだらだら続けててもうだれもかもがどうでもよくなったころに「一緒に住もう」で強引にエンド。完全に投げっぱなしの打ち切りだこれ……。

 もう、なんなのコレ? 何年もつづけてこのオチはないだろ、ホント。カタルシスの無さが半端じゃない。なんでここで終わったの? まったく意味わからない。悪い意味で。

 自分は連載時は二巻くらいまでちょろっと読んだだけで、だいぶあとになってからまとめて読んだのでまだダメージが少ないけど、連載ずっとおっかけててこれだったらかるく死にたくなるくらいひどいよ、これ。最初の方は感情移入できるだけに余計に。自分だったらちょっと頭抱えながら雑誌投げ捨てて夜明けの街に飛び出して「おれに愛をくれよ」と五回くらい連呼しちゃうよ。よくみんな耐えたよ、この最終回に。

 まあ、実際、おわラブ読んでた人、おわラブ好きだったという人はけっこういるけど、最後の方の展開しってる人ってほとんどいないから、そんな心配は必要ないのかもしれませんけどね……

 で、この最終巻には雑誌掲載の最終回とは別に書き下ろしの『エターナル』という短編が収録されていて、本編の一年後になります。そのあらすじが以下。


 『エターナル』のあらすじ

 一年後、あいかわらずラブラブだけど、ちょっと鬱な気分の二葉くん。「永久不変の物語などあるはずもないから」とhydeみたいなことを呟きながら、今日も旦那の帰りを待ってぼんやりニートしてます。

 ある日、竜一の兄貴分に挨拶に行きました。そしたら兄貴分がアパートにほのぼのレイプしに来ました。「こいつは竜も承知なんだよ」二葉くんショック。

 もう別れるしか、と思いながら、レイプされてぐったりしていると、そこに現れた竜一くんが「そうだ、一緒に死のう」と閃きます。

 最後にファイト一発しながら、二葉くんは首をしめられてイっちゃいます。

 で、全部夢でした。めでたしめでたし。


 ……なにこれ……こんな無内容な夢オチを最終巻に付け足すことになんの意味があるの……

 ヤクザ者とくっついた将来への不安とかを示唆したつもりなのかもしれないが、べつそんなんどうでもいい。そういう不安を処理したいなら本編でキッチリやれ。そもそも二葉の人生の不安とか社会不適合って、彼氏がヤクザだからとか、彼氏が男だからとか、そんだけの問題じゃないだろ。普通にニートでなにもできんことだろ。そこをまず悩んで解決してまず普通に生活できるようになれよ。せめてなろうとしろよ。

 最後の最後で胸糞悪い夢オチ見せられて、なにこれ嫌がらせなの?最終巻にこんなもんつけるなんて嫌がらせ以外に考えられないんだけどホント。どういう意図なの?

 まあ栗本先生と云えば心中萌えなので、とりあえず二人に心中させたかったんだろうけど、ここまでダラダラやって心中バッドエンドはちょっと……と理性を働かせた結果「そうだ、夢オチにしよう!」と閃いてしまったんだろう。閃くなバカ!

 まったく最後までついてきてこんな嫌な気持ちになる連載なんて珍しいよ……


 と思ってたら、これが最後ではなく、特別篇が出版されました。

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