211 FULL HOUSE Special 中島梓脚本名作集 2(同人誌)

1995.11/中島梓事務所

<電子書籍> 無


【評】うな


● グインミュージカル脚本集(ただしグインはいない)


 中島梓の舞台脚本選集その二。

『マグノリアの海賊』『ペンギン』『グイン・サーガ 炎の群像』収録。


『マグノリアの海賊』

 海賊時代のイシュトヴァーンが、宝探しの航海の途中で立ち寄った島で女を片っ端から口説きまくる話。

 これは小説化し、同名のグイン外伝となっているので読んだことのある人も多いだろう。

 内容は本当にただイシュトがナンパして女を即落ちさせているだけなのだが、イシュトヴァーン自体を青春や夢の象徴として描き、過去のある年増女、恋に恋する乙女、女を捨てたはずの男女が、それぞれときには異なる形で、ときには重なる形で揺れる想いを、歌に託して表現するミュージカルとなっている。

 なので歌の部分の出来がよくわからない脚本では、あまりにもストーリーがないというか事件がなさすぎる薄い脚本にしか見えない。でも怖いものしらずのヤンキーが好き放題にやってるんだからもうちょっと散々なトラブルがあってもいいんじゃないかな……。あとグイン・サーガを題材にしているのに現代をネタにしたギャグが連発されるのは、やっぱりちょっとどうかと思いますね……。


『ペンギン』

 美人のママさんと様々なオカマが務めるゲイバー「ペンギン」に、ある日一見の客が訪れる。その男は実は不倫相手を殺して逃亡中の連続殺人犯で――

 という設定にたどり着くまでに尺が半分終わっているということにまず驚く。普通開始十分以内にそこまでたどりつかない?

 じゃあそれまでなにをやっているのかというと、基本的のゲイバーの出し物として歌っているのである。それが見たいなら舞台ではなく本物のゲイバーに行けばいいと思うのだが、どうであろうか?

 後半はその逃亡犯の立てこもりにより、オカマたちの過去や事情が明かされていき……という展開なのだが、前半で尺を使いすぎているためにどうも話の展開が急すぎてラストで唐突に犯人が即落ち二コマ漫画みたいになるところはいかがなものかと思った。まあ、この話は『天国への階段』に収録されていたような初期短編のノリだし、あれらも短編だから展開は急だったからね……。

 ただ、その辺の説得力は役者の演技で作れるだろうし、歌の出来次第なところはあるから、舞台で見れば面白いのかもしれない。話の設定自体は初期短編みたいで嫌いじゃないし、オカマたちが「羽根はあってもどこにも飛べないペンギン」と自嘲しながら「それでもいつか飛べるはず」と願う物悲しさは、大変に栗本薫的だ。

 解説によると今作は『ミスター!ミスター!』『いとしのリリー』に続くゲイバーミュージカルの決定版として作ったつもりで、出来にも満足がいき、今後も再演していきたいと書かれているが、実際に再演されることはなかった。また小説版も書かれなかったため、わりと埋もれた作品である。なんでゲイバーネタをやたら舞台でやりたがっていたのか、なぜ小説版になるとゲイバーネタが控えめになるのかわからないが、小説で書いて欲しかった。

 まったくの余談だが、当時高校生だった自分が『ギルガメッシュないと』を観ていたところ、どういうつながりがあったのかは知らないが、番組終了直前の宣伝タイムにこの『ペンギン!』が紹介されたことがあり、大変に萎えた記憶がある。想像してみて欲しい。飯島愛の尻を見ようとオギオギしながら待機していた十代の若者が、唐突に栗本薫の名を出され、あの顔が脳裏によぎり現実に引き戻される瞬間を。あれは悲劇であった。しかも飯島愛はすでにアシスタントを降板していて最後まで出てこなかった。この世界には悲しみしかないのだ。


『グイン・サーガ 炎の群像』

 グイン・サーガ本編の序盤をミュージカル化したもの。こちらは以前にビデオ上映されたものを観たことがある。

 尺の問題から話はパロ奪還のみとなったため、タイトルになっているのにグインは存在そのものが抹消されている。薫は「肉体的に実写でグインをやれる役者はシュワルツェネッガーとかしかいなくなるから」というようなこと云ってたけど、そこはがんばっていただきたかった。

 あらためて読んでも、やはり十六巻分を二~三時間の舞台にまとめるというのは厳しいものがあり、その上でやたらと歌い、ギャグも入れようというのだから、どう考えても無理である。そのうえで原作より大幅にヴァレリウスの出番やナリスとの絡み増えているため「この舞台のせいでナリスはホモに……」という切なさがこみあげてくるので、一本の作品として冷静に評価できる気がしない。しかしやはりパロ編だけだと一本調子だし、キャラクターが多すぎるせいでいろいろ詰まっている割には盛り上がりどころがわからなくなっていると思う。

 この同人誌が書かれた時点ではまだ上演されておらず、そのためかかなり気負った解説が書かれており、読んでいてなんか恥ずかしくなる。梓……あなたのミュージカルでは日本のミュージカル史は変わらないし、この舞台であなたは大借金背負うのよ……。



 栗本薫の作品は独創性で勝負しているものではないため、脚本だけ読んで良し悪しの云えるものではなく、レビューできるようなものではないな、と思った。とはいえグイン関連二本の脚本が入っているため、小説との読み比べをしてみると面白いかもしれない。グイン外伝、PEN「GUIN」、グイン本編とグイン脚本三本立てだしね!

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