202 日付のないラブソング(「妖花―ルビー・アンソロジー1―」収録)
1995.06/角川書店
【評】うな
● あの頃ルビーは妖しく輝いていた……
ルビー文庫で活躍していた栗本薫と小説道場門弟たちの短編を集めたアンソロジー集。
執筆陣は栗本薫、秋月こお、江森備、尾鮭あさみ、須和雪里。
本稿では栗本薫の『日付のないラブソング』について触れる。
本編一話の前、二葉が暴走族にガンガンやられていた頃の話。
二葉が「自分を切なげにみている優等生がいるなー」と気づいたけど、関わりがないから放置して、いつものようにハメられまくっていたら、いろいろな悩みで勝手に自殺して「愛していました」という手紙を残しました。
短い話だし、特にオチがあるわけでもないが、はすっぱな口調で、されるがままにやられながら冷たく観察している二葉はやはりわりと美少年に見える。勇介に対してつっかかった物言いしかできないのもいい。
自殺した半ストーカーの同級生の事情だの内面だのがまったく語られないままなのも、高校生特有の近くにいるのにまったく打ち解けていない距離感があって、このなにもなさが意外と哀しくて悪くない。
もっとも、単品で読んで意味のわかる作品とは云えないので、よくよくのファンでなければ本作のためにこのアンソロジーを探す必要はないだろう。(そもそもいまおわらぶのファンって存在しない気がするが)
しかしこのアンソロジー自体は当時のルビーのスター選手が集まったものであり、JUNEからBLへの変容が曖昧であった時代ならではの渾然とした輝きを感じられる本なため、その方面の研究家なら抑えて損はない(そんな人いるの?)。
特に江森備の短編『死者たちの昏き迷宮』は現在のBLではあり得ない暗さだろう。これは当時刊行中であった彼女の代表作である諸葛亮孔明の私説伝記『天の華 地の風』の外伝であり、最終話でもある。死んで冥府に堕ちた孔明が生前の罪をあげつらわれ裁かれる、という内容で、いくら史実で死が確定している人物とはいえ、まだ連載中の作品の主人公の死後を見せ、しかも全方位的に滅多打ちにするという所業はかなりキレている。現在では復刊ドットコムより販売された『新装版 私説三国志 天の華・地の風 十』に収録されている。
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