199 新・魔界水滸伝 銀河聖戦篇 2

1995.05/角川文庫

<電子書籍> 無


【評】うな



● 壮大なスペースオペラがなかなか幕を開けない


「セイヤ!」銀河帝国の支配者セイに向けて雄介の放った言葉は、彼らに動揺をもたらした。そして雄介抹殺計画がもちあがる。一方その頃、前線の惑星ではあり得るはずのない「機械の反乱」が起き、銀河将軍ミラ自ら率いる部隊が事態の真偽を確かめに向かう――


 なかなか物語が動かない。これではスペースオペラの主役になれないし危機一髪も救えないしご期待通りにあらわれることもできない有様である。

 本巻の前半は前巻ラストではじまった銀河帝国の王子セイと雄介の会見――をすっ飛ばして、その後の両者の互いへの所見ばかりで進行する。つまり感想と推測ばかりで、事態が動くところがまったく描かれないのだ。ハッキリ云って退屈である。

 いや、こうして外堀を埋めようにして焦らしていくことによって、今後起きる事件の凄さを演出していくというのはわかる。近年でも『シン・ゴジラ』の長い会議がゴジラ登場や大活躍のシーンをより盛り上げる役を担っていた。

 だが……二巻もかけて事件がようやく起きたかな? という程度の進展では、まったく焦らしからのカタルシスを感じることが出来ない。しかも旧シリーズの完結から何年も待たされ、ようやく再開したと思ったのにこの牛歩ではたまらない。

 さらに先に挙げた『シン・ゴジラ』はその焦らす会議シーンもスタイリッシュなカメラワークと演出、日本の閣僚会議を彩る豊穣なディティールで十分に楽しめる代物になっていたが、この作品で一巻から長い文量をかけてじっくりと描かれる銀河帝国の姿は、何度も云うが古臭いし既視感に満ち溢れているのだ。


 前巻のレビューで「この時代に日本人のスペオペなど誰であってもノーチャンスであっただろう」と云った舌の根も乾かぬうちに云ってしまうが、この翌年の九六年に、ハヤカワ文庫から日本人作家によるコテコテのスペースオペラ『星界の紋章』が出版されスマッシュヒットを飛ばしている。この作品もまた文庫全三巻のかなりの部分を、アーヴという特殊な種族によって統治された銀河帝国のシステムや言語を描くことにかなりの紙幅を費やしているが、そのことに退屈はせずむしろ興味をそそられるばかりであった。

 こうした幾つかの事例を考え、また中島梓当人がSF評論『道化師と神』で書いていたことを鑑みると、やはりいままでに見たことのないものを見せてもらっているというセンス・オブ・ワンダーが、SFには他のジャンルより大事なのだろう。その点において、二巻にわたって描かれたこの銀河帝国の姿というのが「いや、それ二十年くらい前に漫画で見たから」と云いたくなるものばかりなのは致命的である。

 それでも、その設定ではなく、そこで描かれる冒険や人間模様を中心に描くというやり方をすれば十分に面白くはなるのだが、この『新・魔界水滸伝』はそういう方向へ行かなかったのが間違いだろう。


 読者にはとんでもないパワーを秘めていることがわかりきっている雄介に対し、暗殺だの研究だのを考えている帝国上層部の姿が描かれること自体は、やり方次第では十分に面白くはなかったと思う。「いくら計画しても主人公パワーでワンパンされるのに」とニヤニヤさせて引きを作り、いざことが起きれば実際にワンパンさせたスカッとさせるTueeeee系の法則である。このワンパンマン理論によって機械と論理の帝国がひっくり返る展開が一巻、せめて二巻で描かれていれば、ずいぶんと次が見たいと思わせただろうに、いかんせんなにも起こらなさすぎている。


 正確に云うと、二巻後半でようやく事件が起きる兆しがあった。

 このくだりで初登場の二人の新兵が、なぜか強者ばかりのベテランチームに配属されて困惑するくだりは、旧作前提の話作りから、ようやく新シリーズとしての楽しみを感じることができた。いっそ一巻からこの新兵視点で話を進め、途中で雄介が出てくる話にした方が面白かったのではなかろうか? 『魔界水滸伝』の前半で呉秀英が雄介たちと合流するまでに丸々一巻をかけたあのノリが良かったのではなかろうか?


 いまさら物語の展開にああでもないこうでもないと文句をつけたところでどうしようもないのだが、売上さえよければ中絶することもなかっただろうということを考えると、どうしても「やはり新シリーズでこの出だしは……」という気持ちになってしまう。このままの展開であったとしても、せめて二巻までのストーリーを一巻の時点に詰め込んで欲しかった。小説道場で無駄に長い作品に対して削れ削れと指摘しまくった道場主として、削ることの大切さを自作で見せて欲しかった。

 あのキャラが敵に!? というところで次巻に続くというのは悪くないが、しかしその前に一つはカタルシスが欲しかった。そもそも「引きの鬼」と名乗り次巻への続き方のえげつなさを誇る栗本薫であったが、実際のところは自分はその辺りはさして、というかまったく評価していない。八十年代九十年代ジャンプで育った子供には、この程度の引きは日常茶飯事過ぎて次巻を手にとる動機にはならないのであった。

 続刊の刊行が九ヶ月後であったことを考えると、多くの読者がここで離れてしまっても致し方なし、と思えてしまう。


 まあ、個人的にはそれなりに楽しめたし、決して嫌いな巻ではないのだけれどね。


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