197 仮面舞踏会 ―伊集院大介の帰還―
1995.04/講談社
1997.03/講談社ノベルズ
1998.04/講談社文庫
【評】うなぎ(゚◎゚)
● 名探偵の帰還と新境地に歓喜
滝沢稔はパソコン通信にはまっている十八歳。いつも馴染みのフォーラムを回り、仲間たちとネットでの交友を楽しんでいたが、ある日、ネットでの友人である女性に交際を迫られ断ったことをきっかけに、ネット上での事件に巻き込まれる。困っていた稔の前に現れたのは、失踪していた名探偵、伊集院大介であった――
伊集院シリーズでも一に二を争う傑作である。
虚実の定かならぬネット社会であるからこその事件。絡みあった人間関係。インターネットも普及していないパソコン通信の時代であるからして、いま読むとかなり隔世の感があるが、それでも現在にも通じるネットならではの深さ、怖さを活写している。
登場人物にも、ネットをしていたら「いるいるこういう人」と思うようなリアリティがある。メンヘラのダフネや下ネタ大王の松田など、ネットならではのキャラであり、面白い。
伊集院大介の推理も光っている。人の心の襞を読み取り、真実を導き出していく伊集院大介の真骨頂である。サブタイトル通り「伊集院大介が帰ってきた!」と思ったものだ。すっとぼけていて、優しくて、鋭くて。理想の男である。
事件がほぼパソコン通信内で進行していく様には、これぞ新時代の安楽椅子探偵物であると感動したし、事件の顛末もパソコン通信ならではのものだと感心した。まさにパソコンという新時代を伊集院大介が案内してくれたような気持ちになれた。
もっとも、ネットに触れてずいぶんと経ついま読むと、いろいろと無茶を感じてしまう。特にある人物の死因のくだりでは、これで事件が起きるなら2chでもmixiでもtwitterでもfacebookでも毎日人が死んだり殺されたして大変だろって思ってしまった。
そういう意味で、存分にこの作品を楽しめるのは、WINDOWS95が発売される前後のあの時期以外にないような気がしないでもない。
ともあれ、栗本薫作品ではき数少ないおすすめ長編ミステリーである。ネット好きなら呼んで欲しい。ツッコミ所も多いだろうが、それを差し引いても面白い。むしろツッコミを入れたほうが面白い。帰還した大介の今後が続編が楽しみになる作品だった。大介の、アトムくんの、松田さんのその後が気になったものだった。
……松田さんのその後を気にした人が何人もいたばっかりに、あんなことになるなんて、当時のぼくらは想像もできなかったんだ……
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