196 新・魔界水滸伝 銀河聖戦編 1
1995.03/角川文庫
<電子書籍> 無
【評】うな(゚◎゚)
● まさかのスペオペ
タナトス生命体との戦いの末、安西雄介はその結末も知らぬままに長き眠りについていた。
そして銀河暦二五〇一年。機械文明である第一銀河帝国と超能力文明である第二銀河帝国が争う宇宙で雄介と加賀四郎は目覚めるが――
妖怪&変人連合VSクトゥルーの神々というかつてない壮大なスケールをでっちあげてはじまったトンデモ伝奇『魔界水滸伝』が、謎のホモ展開により迷走を重ねた挙句、ポッと出の敵と戦ってなし崩し的に第二部が完結してより四年。
「なんかもう収拾つかなくなっていたし、明らかにブーム過ぎてたし、全二十巻でキリも良いし、カドカワノベルズもなくなっちゃったし、角川春樹も社長解任されちゃったし、まかすこのことは忘れてもいいんじゃないかな」という空気が漂っていたため、続編が出ることはないと思っていた。そもそもどこの情報を見ても『魔界水滸伝』は全二十巻完結扱いになっていたし、いま現在でもそういう扱いになっている。ちゃんと読み、全五部五十巻構想だったことを知らない人間以外はみんな全二十巻の作品だといまでも思っているだろう。
なので、この『新・魔界水滸伝』が発表された時は、それはもう色々と驚いた。
「え、続き出るの!?」「え、スペオペなの!?」「え、イラストが豪ちゃんじゃなくていのまたむつみなの!?」
ハッキリいってタイトル以外完全な別物である。四年も空けたし、九五年にもなって永井豪でもあるまい、という気持ちはわかるが、やり過ぎである。しかも新規読者を望もうにも、スペオペである。
2016年現在でも一部のメジャータイトル以外は終わっているスペオペであるが、『スターウォーズ』旧三部作がはるか昔に完結し新三部作の影も形もない九五年当時は、いま以上にスペオペは絶滅危惧種であり、自分のような八十年代文化で育った人間には「正気か?」としかいいようがない存在であった。
しかし、そういった細々とした事情を抜きにしてこの『新・魔界水滸伝』第一巻が発売された時の気持ちを素直に云えば「うおおおおぉぉやったああぁぁぁぁ!」である。
実は、というほどでもないが、自分はグイン・サーガよりも魔界水滸伝のほうが好きだったのである。無論、せっかく一部のラストで百八星が発表されたのに二部で出番があったのが一部のキャラだけであったり、途中から濃厚なホモ展開、というか伊吹凉の美少年化がはじまって「ええ……?」という困惑があったり、手放しに褒められる作品ではなかったが、妖怪VSクトゥルーの神々という基本設定のワクワク感は素晴らしく、また二転三転して先の読めない展開には栗本薫作品でもっともドキドキさせられたのである。
自分がどれくらいにこの新シリーズを楽しみにしていたかというと、栗本薫の小説を新刊で買ったのはこの『新・魔界水滸伝』がはじめてであったくらいだ。いや、ファンなら最初から買えよと云われそうだが、自分がファンになったのは九三年であり、図書館にある十五年分の薫本を読み漁り追いつくのでいっぱいいっぱいだったのである。あと金もなかったのだ。(でもテレビゲームは買いまくっていたから、まあケチだっただけですけどね……!)
ともあれ、そんな作者になにも得を与えないダメ読者であるところの自分が、新刊をわざわざ買わねばならぬと思ったくらいに待ち望んでいたのである。
そんな期待の中ではじまった今作、冒頭から美形祭りである。
表紙がいのまたむつみである時点である程度は察していたが、実に美形祭りである。
新たな主要人物として登場した、銀河第一帝国の王子セイ・グランヴァルドの美形描写が長々と続くところから始まり、《三人神》と呼ばれるセイの腹心も、典型的美形クール参謀貴族のライディン・ファイアーブラス伯、視力ではなく精神波によってものを見る両性具有の妖精さんキャラのシルフィン・クロス、さらには常人の三十倍の体重を誇る銀河将軍ミラ・グランディールまで美形マッチョ設定になっている。なぜ全員美形にしてしまうのか。
そうした美形の描写と、機械文明である銀河帝国の説明に、今作は非常に紙幅をとっている。むしろ銀河帝国の説明しかしていないんじゃないかというレベルだ。
だが、そうして描写されている未来の文明が……やはり古臭い……。手塚治虫である。石ノ森である。『地球へ…』である。『スター・レッド』である。『超人ロック』である。つまり、七十年代SFである。
無論、それらの往年の名作を否定する気はない。だが、今作は九五年の小説なのだ。ただでさえスペオペださいよねって風潮の時代に、この古臭いSF感はたまらない。八十年代半ばには、SF小説はもちろんのこと、少女漫画でも萩尾望都をはじめてとして次の未来世界観を提示する作品が増えていたのに、ここで七十年代SFはきつい。「銀河標準年」とか「銀河時間」とか、とりあえずなんにでも銀河つけとけばいいや的なセンスはつらいのだ。
無論、これは旧シリーズ一巻からの既定路線であったそうなので、着想が八十年代初頭であったのが原因なのではあろう。だが、これは『魔界水滸伝』の二一巻ではなく、『新・魔界水滸伝』の一巻なのである。おそらくは角川側としても新規読者を望んでの、敢えての仕切り直しなのである。「お、『魔界水滸伝』ってタイトル聞いたことあるけど読んだことなかったな。新ってついてるけど一巻目だし、表紙イラスト綺麗だし、読んでみよう」という人が手に取ることも期待しているはずなのである。そこでこの古臭さはきつい。きついですよ……これなら二一巻で良かったですよ……。
仕切り直したのに残念なことになっているのはストーリーも同じこと。はじめの章こそ新キャラだけで展開されたものの、次の章からはシリーズ主人公である安西雄介が出ずっぱり、完全に前作の続きものとしてストーリーを展開していく。これでは新規読者は置いてけぼりである。
また、単純に一冊の本として、ストーリーが薄いというか、この巻の中心となる事件がなさすぎる。アクションでも恋愛でもミステリ部分でもなんでも良いが、物語としてのクライマックスシーンが、この一巻にはさっぱり存在せず、完全に設定を説明して終わる序章の構成なのだ。これでは新規読者は次の巻を読みたいと思うまいし、旧シリーズの読者も「どうせまた長くなるんだからあとでまとめて買ったほうがいいか」と思ってしまうではないか。
旧シリーズが完結したムードになってしまったしカドカワノベルスも終わってしまったためそのまま続けづらいのはわかるが、この仕切り直しは完全に失敗である。栗本薫がストーリー展開に注文をつけられることを良しとしない人間であるのは百も承知だが、シリーズの一巻目としてこんなもの受け取ってはいけない。これを一巻とした時点でもはやシリーズの中絶は決まったようなものだ。
と、わりと客観的に商品としてみたときのまずさを指摘してしまったが、個人的な感想としては初読時も、そして二十年経って再読したいまも、けっこう好きである。単純に安西雄介と加賀四郎のコンビが好きなのだ。機械文明で統治された帝国に本能的な反感を抱く雄介と、このうえもなく適合していながら雄介の参謀としての立場で口を回し続ける加賀先生の会話でニヤニヤしてしまうのである。
百八の彗星雨が銀河に散ったという設定もワクワクするし、古臭いしベタだとはいえそれなりに練られた異星人の設定や描写はエンターテイメントしている。九五年の作品である、という一点を除けば、悪くはない設定なのだ。
とはいえ、この先の作品ではより悪化していく、「やたら長台詞で設定を説明する人がたくさん出てくる」という部分は如何ともしがたい。このせいもあって、本巻の中心とも云える銀河帝国の描写が少なからず鬱陶しくなってしまった。
無論、わりと初期からの栗本薫の特徴であり、小説道場でも退屈な設定を読ませる手法の一つとして会話で説明させてしまう、というのを提示していたので、意図的な部分もあるのだろう。実際、地の文でひたすら設定の説明をして眠くなる小説というのはわりとある。
でも、さすがにみんな長台詞で説明し過ぎぃ! これでは退屈させずに済む理由である会話の妙が出ないではないか。ことに後半、危うい所で雄介に助けられた蝶々星人が長台詞を連発しまくったのちに「体力ないからもう死ぬ」とか云って本当に死んだ時は「そんなに辛いのに喋りすぎぃ!」と普通に突っ込んでしまった。まあ死ぬ間際にやたら喋ってしまう作品というのはけっこうあるけど、数十ページに渡って説明した挙句にそんなことを云うのは規格外である。お前は役割を終えた瞬間に消えるNPCか。
そんなわけで、個人的には好きだけど、褒められるかと云えば微妙だし、中絶の芽はすでに萌芽していたな、と感じてしまう仕切り直しの一巻であった。薫、あるいは編集もこの一巻だけではまずいと思ったのか、二ヶ月後にすかさず二巻を発売するというスピード戦略をとりはしたのだが……以下、二巻の感想へ。
ちなみに全五部五十巻とこの記事の上の方に書いてしまったが、この巻のあとがき読んだら全四部構想だった……そうだったっけ……もう二十年も前だからおっさん忘れちゃったよ……。でも薫さんや……二十巻かけて二部までだから四部までやったら八十巻というのはどういう計算なのかな……というか薫はこの新まかすこのことを二部と書いたり三部と書いたり曖昧過ぎんよぉ。
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