190 (改稿する?)新版・小説道場 3

94.11/光風社出版

16.11/ボイジャー・プレス


【評】うな∈(゚◎゚)∋


● 疲れはじめる道場主


『JUNE』誌上で連載されていた投稿小説指導連載をまとめたものの第三巻。

 根本的に小説道場はぼくの人生を完全に踏み外させた名著である。

 が、この三巻は一巻二巻に比べるといささか評価が落ちる。

 さすがのへんへもネタ切れ気味なのか、指導の内容がワンパターン化してきて、特に目新しい展開もないからだ。


 というかJUNE及びBLというものがいよいよジャンルとして確立されてきて、道場初期にあったなんでもありの闇鍋状態を抜けだし、投稿作品も商品としての需要をつかんだ優等生的な、悪くいえばユニークさに欠ける作品が増え、道場主があまりいろいろなことを語る必要がなくなってきたのだ。

 JUNEという曖昧な、しかし確実に存在する欲求に対して、道場というかたちで一つの道を作ろうとしたのが中島梓の営為だ。

しかし時代はJUNEからやおい、そしてBLへと変わっていき、「やむにやまれぬ少女たちの奇妙な欲求がなぜか性的倒錯となって作品にあらわれる」というJUNEの時代ではなくなってきていた。


 むろん、その中でも何人か気を吐く新門弟はいたし、後にプロとして活躍する作家を多数輩出したのもこの時期である。むしろ初期の高弟が、後に作品の評価とは裏腹に商業的な苦戦を強いられていく中で、この時期にデビューした門弟はBLというジャンルに特化して商業作家としての地位を確かにした者が多かった。

 無論、BLというジャンル自体を悪いとは思わない。読者の求める楽しさを届けるのは職業作家として立派なことだ。だが、自分は異性愛者の男であり、JUNEに惹かれ求めたのは、性別を入れ替えたシンデレラストーリーや同性愛ポルノではなかった。現代社会に適合できない奇妙な愛の物語が見たくてJUNEに惹かれたのだ。栗本薫を求めたのだ。

 ゆえに、BLがジャンルとして確立されつつあったこの時期、中島梓の居場所はなくなっていったのかもしれない。

 ……もっとも、この後、当の栗本薫自身がものすごく間違ったホモポルノ、それも読者の需要をまったくつかんでいない方向へと突き進んでしまったのだから、どうしようもない。


 やおいとは、BLとはなんなのか。

 語る人間は多かったが、語りきれた人間は、いまだにいないだろう。自分の捉えかたも自分なりのもので、他の人から見れば身勝手な自分ルールにしか過ぎないと思う。

 ともあれ、良きにつけ悪しきにつけ、八十年代初頭から九十年代のなかばまでに、JUNE・やおいというものがどんどん変質していったことだけは確かだ。

 小説道場は、その変遷を直に感じられる貴重な資料でもある。

 内容の素晴らしさもさることながら、そうした面においても本作は後世に残したい名著であるが、マイナーな出版社より発売され、とうの昔に絶版となっていた。だが2016年9月より、電子書籍版が一巻から順次配信開始している。

 あの時代を知る人も知らない人も、是非とも読んでみて欲しい。

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