163 終わりのないラブソング 4

1992.12/角川ルビー文庫


【評】うな


● 二葉くん外道伝説の開幕


 家出した二葉がなんとか清正に連絡をとって居候しつつ、紹介された喫茶店でバイトしてたら、昔の男が現れてぐだぐだになったのでバイトやめました。


 別にこの巻に限るわけではないが、この辺の出所後のくだりで一番の注目は、二葉が恋していたはずの優等生、麻生勇介のひどい扱い。

 成績優秀で彼女もいる順風満帆な優等生だったのに、二葉に惚れられ、変に真面目で情が厚かったためにそのことを真剣に考えてしまい、結局受験は失敗するわ彼女にはふられるわと散々なことに。少年院にいる二葉にしょっちゅう面会にくるわ欠かさず手紙を寄越してくるわと、まるで仏のようないい子っぷり。そして二葉が院から出てきた後も、家出を助けたりとなにかと尽力してくれて、もはやお前は神かという領域。

 にもかかわらず、二葉のクソビッチ野郎は第一話で「さいごのさいごまで、勇介を愛しつづけるだろう」とか云ってたくせに、院で竜一とつきあうようになったら「過去の男のことなんて知らねっす。面倒見てくれてあんがとね」とばかりに、そんな勇介に非常に距離のあるどうでもよさげなふるまい。二葉さんが外道すぎてひくわ。


 昔好きだったけど付き合っていたわけでなくて、しかし自分のせいで人生狂わせてしまったノンケの男……なんて扱いの難しいキャラクター、よくよくの考えがなければまともに動かせるわけはないとは思うし、なりゆきで連載になった栗本薫に同情しなくもないんだが、しかしそれでもこの勇介の扱いはひどい。

 で、適当に退場させるには序盤の重要キャラでありすぎるし、かといって竜一がいる以上もはやいる意味はないし、保護者としても清正がいるから役に立たないし、という状態になり、結局ご都合主義そのまんまで清正の妹の奈々に惚れて、うまくいっている感じだからもういいや、みたいな感じで投げ出された。ほんともう作者の厄介払い的な意図が透けてみえて嫌になる。それに勇介の進退に関して二葉がじつにまるっきり心配も関心もないし。すこしは情をのこせよ、あれだけす~きす~き云ってたんだから。


 で、勇介とくっつく清正妹の奈々ちゃん、これもようわからんキャラやでほんま。はじめは心に傷を負うもの同士ということで、すっかりお姫さま化した二葉とレズ的にいちゃいちゃしてなかなか微笑ましかった。社会不適応者同士で触れ合って、更正していくのかな、という感じもなかなかよかった。

 実の父にレイプされ、兄が父を殺すことによって助けられたがそのために精神病院に行き、なんとか社会復帰したが兄への道ならぬ恋に悩んでいて、兄の清正の方もそれを察していて見捨てることもできずに、仲良さそうに見えるが薄氷の上な生活を送っている、というのも、なかなか悪くない。が、その状況を設定したはいいがどう動かしたものか困ったのか、勇介に惚れられてアタックされるなり、兄貴のことなんてまるっと忘れて満更でもないご様子。

 だからさー、別に新しい彼氏ができるのはいいけど、なんで二葉もこいつも前にあんだけ一方的にスッキスキストーキングしてた相手のことどうでもよさそうになるんだよ。マジクソビッチですよ。諦めるにあたっての葛藤とかもっとちゃんと描けよ。

 わたし外の社会は怖くてこの家から出られないんですってツラしてたくせに、男ができた瞬間にものすごい勢いで社会復帰しやがってよー。なんなんだよこいつ。マジでイラッとするぜ~。


 メインキャラのような扱いだった二人は、そんなこんなで在庫処分的なあつかいでどうでもよくなる二人に。読んでいて残念な気持ちでいっぱいでした。

 あと二葉のバイトのあまったれた仕事っぷりも「うわ、こいつと一緒に仕事したらめんどくさそー」と素直に思ってしまいました。

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