165 天狼星Ⅲ 蝶の墓
93.03/講談社
96.03/講談社文庫
【評】うなぎ(゚◎゚)
● 乱歩趣味の結実
北海道のあるさびれた温泉町に住む少年、竜崎晶。彼は近ごろ、突如としてあらわれた旅の老人と美女が気になっていた。そして二人を追うようにしてあらわれた奇妙なサーカス団。事件は思わぬところからひろがり、晶の過去をも巻きこんでいく……
天狼星シリーズ第三弾にして完結編。
力みすぎてへんてこになったⅠ、あからさまに失敗作なⅡを経て、数年の放置の後に満を持して出された完結編。天狼星シリーズ自体が空回り気味の空気を漂わせていたのだが……しかし、これは良かった。
乱歩的怪奇趣味、横溝的閉鎖社会に加え、栗本薫の美少年趣味と名探偵ものへの憧憬、そこへ軽妙な語り口による鮮やかな展開が見事に融合し、栗本薫が幾度も挑み失敗を繰り返した怪奇小説の、ほぼ唯一の成功作となっている。
まずオープニング、シリーズでありながら、まったくの新キャラクター竜崎晶を主人公に据え、伊集院大介もシリウスもまるで出てこないままにストーリーが進んでいくことが面白い。いったいどこが天狼星なのだ? と疑問に思っていると、中盤で見事にだまされる。
竜崎晶のキャラクターもいい。栗本薫の美少年キャラの中でも、稀有な成功例であろう。少年と青年の端境期に立ち、何者かになろうとしている姿が非常に魅力的だ。この少年の成長物語が、殺人鬼シリウスの悲劇とからみあい、最後にシリウスの本当の姿とでも云おうか、本物の怪人などにはなり得なかったシリウスの姿をあばいて幕とするのは、なんとも鮮やか。
やや長い作品ではあるが、全体の構成、先をぐいぐいと読ませる展開と文章、伊集院大介シリーズの中でも異例の「そう来たか!」と驚かされるどんでん返し。一部、吉沢胡蝶に関するエピソードがいつものホモ天才を「おぉなんという」ともみ絞っているだけでかなりどうでもよさがあるものの、ほかの部分ではいじるところがないほどに、完璧に近い作品。
……とまで云っては明らかにほめ過ぎだとは思うが、乱歩・正史へのリスペクトが、見事に結実した唯一の作品として、伊集院大介シリーズのフィナーレを飾るに相応しい傑作である。(なおフィナーレではない)
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