158 FULL HOUSE 2(同人誌)
1992.08/中島梓事務所
【評】うな
● 続いてしまった同人誌
栗本薫の書き下ろし短編『蜥蜴』『チチア』を中心に、吉田秋生、中田雅喜、竹田やよい、S・PENGUINのショート漫画、三人の編集者による掌編の載った同人誌第二弾。
栗本薫同人の二冊目。
前回は個人誌にちょっとだけゲストって感じだったけど、今回はゲスト多めで合同誌って感じかな。
『蜥蜴』 栗本薫
これは後に商業出版された『蝦蟇/蜥蜴』に収録された一遍。つうか同人誌が初出だったんだな……。知らんかった……。
なので感想は後の項目に譲るが、美形の従兄に執着してついには殺してしまう醜男の内心を切々と語るという、栗本薫お得意というか栗本薫以外にできないような非モテ臭満載の話でわりと好きです。
『チチア』 栗本薫
15歳のイシュトヴァーンが故郷の歓楽街、チチアでモブレイプされる話。
もうモブレが楽しめるかどうかというその一点にかかっているので、なんとも……。
でもレイプされてちょっと弱気になりながら抜け目なく裏をかいてやろうとし続けてる感じは好き。不屈な感じじゃなくて、意外と参ってるのにチャンスがあるとたくましく復活するところとかイシュトの魅力だよね。人数に囲まれるとあっという間に降参するところとか、そういう弱さがいい。
後半はのちにイシュトの相棒となるランとの出会いになっているけど……えーと、誰だっけ? 多分『マグノリアの海賊』の時のイシュトのお追従役だったと思うんだけど……カラヴィアのランだっけ? ……あ、ちがう、カラヴィアの方のランはパロにいるナリス派の市民だ。ヨナの友人だ。
『宝島』の時につるんでたお追従役もランだっけ? そんでランって『宝島』で死んだんだっけ? あれ、どうだっけ……? わい、ファンの代表やでみたいな顔していて、なんもおぼえとらへんのや……
ちゃうねん。イシュトのお追従役、けっこう頻繁にコロコロ変わるけど、中身は同じだから覚えられへんねん。栗本先生、適当につけたキャラは二文字で済ませるし同じ名前を平然と出すから混乱するねん……わいが悪いんじゃないんやで……
でも高校時代、まだ夢中になってたはずの頃に、数少ないグイン友に「そういえばイシュトが可愛がってたリーロ少年最近出てこないな」と普通にいったら「いや死んだじゃん」と返されて「え、そうだっけ?」と本気で驚いて確かめたこともあるわいなので、かなりいい加減に読んでいる疑惑が尽きないんやで……。
そんな感じでランは出会うなり「イシュトきれい。素晴らしい。ぺろぺろしたい」といういつものアレだったので、そんな出会はどうでもいいかなって気がした。崇拝する理由をいろいろいってるけど、要は顔がいいからってだけなんだもん……。おれ栗本薫の小説くらい「※ただしイケメンに限る」の法則が生きている世界、見たことがないよ……
『終わりのあるラブソング』 吉田秋生
なぜか唐突にちびになったふたばを竜一がうっかりプチッしちゃうだけの四コマ漫画二本。
力の抜けた可愛いパロってことで、よくもわるくも同人のゲスト原稿丸出しなのでこれはこれで良いと思います。
『裏グイン・サーガの世界』等 図子慧
小説家の図子慧がなぜか四コマ漫画四本。
なぜ小説ではなく漫画なんだという疑問は尽きないが、ファンジンらしい四コマで可もなく不可もなく。
『ありすとーとすちゃん』S・PENGUIN
だれ!?
どうやら本業は別のことをやっている人の変名らしいが、だれ!?
3ページ、四コマ五本だけではあるが、アリストートスがシンデレラ、イシュトとナリスがいじわるな姉、王子様がグインというめちゃくちゃな配役で行われるシンデレラパロという狂った漫画で、Mでキモかわいいありすとーとすちゃんといい、謎めいた才気を感じる。だからだれ!?
『激突ナリスVSスカール』 竹田やよい
スカールに押し倒されるナリスというただそれだけのエロ漫画だが、竹田やよいがいつもの絵でグインの二次創作エロを描くという、わかりやすく価値のある仕事っぷりだった。
『まぼろし新撰組異聞』 中田雅喜
本編のイラストレーターがパロ四コマを描くというただそれだけの作品。
本編の主人公のねーちゃんが一番粗雑で嬉しくない裸を見せているのが「この世界は女は本当にどうでもいいんだな」という感じでちょっと面白かった。
『SOMEDAY IN SOME TOWN』 今岡清
ご存知、栗本薫の旦那の小説。
ゆきずりの男にトラブルから助けてもらった娼婦が男といい感じになって思わず服を脱いだらオカマだということがバレて「オカマなんてキモいよね……死ねばいいんだよね」とメソメソしてたら「きれいな顔が台無しだよ」といわれる短編。
話の途中で別の作家の漫画が入ってきたので「変なところで漫画入れるなあ」と思っていたら、そこで小説が終わっていた。全編、オカマがメソメソしているだけで特に内容はなく、オカマの悲しみ的なものも特に伝わってはこなかった。多分オカマだとわかるところが叙述トリックになってて、男が気にせずに口説くところがオチなんだろうが、こういう共感させて一発ネタみたいなのは文章力がないと厳しいよなあ。
『ディセンバーの秘密』 佐川俊彦
今度は『JUNE』編集長の佐川くん。
ディセンバーという雑誌の潜入ルポをすることになったが、その編集部では全裸の美少年が待っていた。そして続く。
たった3ページで、内輪ネタオンリーで、しかも続く(続かない)という、小説においてやってはいけないことを畳みかけてくる感じがたまらない。小説なんてものは書けないのに頼まれて書いたのだろうが、もうちょっとがんばろうよ……。
『5月の晴れた日』 野崎岳彦
ハヤカワの当時グイン担当だった編集者。
高校時代、男子校でレイプ現場を見たことがあるけど、そのときの被害者に十数年後道端ですれちがったけどそれだけだったよ、という話。
いや、だからさ……そりゃプロの作家や漫画家には、こういうさりげない青春の一コマみたいなのをサッと書いて、なぜか心の繊細な部分をえぐるものもあるけどさ、でもそれって地力がある人が情感を捉えるように描くから成立するのであって、こんな平易で面白みのない文章で本当になんにもない情景を描かれても、なにひとつ面白くないんですが……。
編集者三人の小説は、三人とも文章力以前に面白くしようという気持ちが感じられないよ……。あんたらプロの編集者なのにそれでいいのかよ……。そりゃまあ売れっ子の知り合いに頼まれたワガママに適当に付き合っているだけなのかもしれないけど、それにしたってもうちょっとこう、さあ……。編集と執筆の才能は別だということは理解しているけど、これはないよみんな……。
まあでもそんな素人の作品が読めるのが同人誌の醍醐味ではあるから、これでいいのかな、と思ったりもする。
という感じで、バラエティ豊かな同人誌ではあった。
メインとなる『蜥蜴』は、後に商業出版されたとはいえ、これが初出なら買っても損はない本かなあ、という気がする。『チチア』も嫌いではない。なので栗本薫部分はそこそこの納得行く感じかと。。
漫画家はみんなそれぞれちゃんと求められている仕事を果たしているし、編集者たちの小説は悪夢のようにつまらないけど、これはこれでよそでは見られない企画ではある。
総合すると、同人誌としての満足度は悪くないかな、と思った。プロとはいっても同人誌ってお遊びだよね、という意味では妥当なクオリティとボリュームだと思う。逆に同人であんまりちゃんとしたシリアスなの作られても「いや商業で出せよ」って気もするしね。これくらいのふざけた内容でいいと思う。
その分、悪い意味でぼくの心を燃えさせるものもなかったですね……。
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