157 魔界水滸伝外伝 白銀の神話 蘭丸の巻

1992.05/カドカワノベルズ

1995.01/角川文庫

<電子書籍> 無

【評】 う


● 資料の引き写しはやめよう(戒め)


 織田信長として人の一生を過ごすことになった蛇神・北斗多一郎。寺社勢力にとりついたクトゥルーたちを殲滅しながら、安土城を建築した彼の前に、森乱丸があらわれる。存外に凡庸な乱丸に拍子抜けする多一郎であったが――


 急につまんないなこれ!

 ストーリー的には安土城の建築から本願寺との抗争集結までとけっこう進んでいるものの、この巻の見せ場となるようなシーンがなく、別に独自解釈が加えられているわけでもない史実を「これ資料の引き写しだろ」と云いたくなるほど退屈にだらだらと説明しているシーンと、それに対するあってもなくてもいいようないつもの物思いがほとんどであり、信長を題材にとってこの退屈さはギルティである。

 ヒロインである森乱丸も登場したが、そもそも多一郎と絡んでいるときの涼が魅力的ではないため、ちっとも盛り上がりはない。

 お調子者の秀吉との会話も面白くはあるものの、ページ稼ぎだろこれと云いたくなるような冗長さの方が目立ち、愚物として書かれている明智光秀が正論にしか見えないのも安定の栗本薫である。グイン・サーガでの様々な国の大臣もそうだが、主に注進する中年の中間管理職ポジションのキャラ、基本間違ったこと云っていないのになんで薫はいつも愚か者として書くんですかね……主の方針に逆らう時点でギルティなんですかね……。


 それにしても薫のいいかげんさとそのオープン具合、大人になったいま見るとビビるわね……。二巻目だというのに書く直前に資料を買ってきたとか、しかもたった二冊だとか、それを読まずに書きはじめて勘でこじつけた設定が資料に史実として載っていてびっくりとか、「いや、資料ちゃんと読んで書けよ」の一言で終わらせたくなるようなことが自慢げに書かれているんだもの……。そりゃ知識が一夜漬けで資料二冊だけだったら説明も退屈な引き写しになりますよね……。歴史小説は資料で知ったことをどれだけ書くかじゃなくて、ストーリーに関係ない部分をどれだけ書かないかの方が大事だったりするのよ薫……。

 あと蜂須賀小六が「猿の雑霊」と書かれた次のページで「ぶち犬の雑霊」になっていたのは、栗本薫慣れしている私もちょっとびびったわね……。見開きの間に設定が変わるなんて、完全にゆでたまごの領域だわ……。つうかどれだけ校閲に放置されてるの……。


 結局、この巻で面白かったのはあとがきでの角川春樹社長の発言「魔界水滸伝をドキュメンタリーとして読んでる」だけだったわね……。

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