153 終わりのないラブソング 3
1992.03/角川スニーカー文庫
【評】うな
● 冷静と情熱のあいだに立たされる読者
少年院を退院した双葉は家に戻る。だが双葉を待っていたのは、「善良な」実の家族による邪魔者あつかいであった――
三巻は、少年院を出て家に帰ったら、家族に「迷惑ばっかりかけるいらない子」あつかいされて、拒食症になったりリストカットしたりしてたら病院に入れられそうになって逃げる話。
唐突に家族がひどいって描写が連発されて、「え~、そういう話だったっけこれ?」という気分になる。
たしかに前巻にもそういう描写がないでもなかった、「私はいらない子」という被害妄想めいた家族への屈託は、JUNEにはまるような少女の抱えがちな心情でもある。傷ついた二葉に異様に冷たい家族にはムカついて、二葉に判官びいきしたくもなってくる。孤立する二葉もかわいそうな美少年として完成されているし、シンデレラ的な少女漫画としてはうまいこと書けているのだろう。
ただ、そういうがんばってる子がいじめられて可哀想的な話だったっけ? これ。
読んでいる間はそれなりに感情移入し「かわいそー」という気にはなるのだが、冷静になればなるほど唐突な舵取りに疑問を感じずにはいられない。
そもそも学校に行こうとも仕事しようともせず、なにも意欲を見せずただ被害者面して拒食症になったりリストカットしたりするようなやつが迷惑なのは確かであり、なげやりな素振りだけでなにをしようともしない二葉に非があるだろ、と自分の大人の部分がどうしても思ってしまう。
ただ、中高生的な被害妄想ではあるが、しんねりむっつりでろくにしゃべれないのに不満げなキャラの内面を熱意をもって擁護的に書くことにおいて栗本先生の右にでるものがいないのも確か。だって栗本先生はそういう幼少時代を送ってきてたみたいだし。
なので三巻は、客観的に見るとむちゃくちゃだけど、被害妄想を抱えた若者の心を捉える力にはあふれているのではないかな、と思う。読者が二葉に一番感情移入できたのはこのあたりの時期なんじゃないかな。しかしこういう感覚って、ホント高校生までだと思うんだよね、たいていの人は。それを保ち続けた栗本先生は、ある意味すごいな、とは思う。
まあ冷めたように云ってますけど、ちょっと泣きましたけどね、ぼくも。
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