140 Full House(同人誌)


90.12/中島梓事務所


【評】うな


●栗本薫、はじめての同人誌


 禁断の自作パロを中心とした栗本薫初の同人誌。

『一夜』『激突ナリスVSイシュト!PARTⅠ』『激突ナリスVSイシュト!PARTⅡ』『座談会小説「やおいだよ」』『日付のないラブソング』『前髪心中』収録。



『一夜』

 ヴァラキアの歓楽街、チチア。そのある一夜。

 船乗りが、賭けの景品として一人の少年を抱こうとしていた――

 イシュトヴァーンの初体験。


 これはストレートにカメ×イシュの初体験話っすね。後の座談会小説で本編の外伝に入れても大丈夫なくらいのつもりで書いた的なことをいっている通り、雰囲気も文体も本編に近いね。

 内容は本当にもう、ただカメさんが少年買春しただけの話としか……。

 まあ、少年イシュトの幼さと、年齢に見合わないすれた感じとの組み合わさった魅力とか、いちいち勝ち気な反応やふいにあけすけになる感じとか、いつものアレといえばそれまでだけどなかなか魅力的に描けているし、悪くはないと思う。

 ただなあ……カメさんがなあ……これが本編につながる話だとしたら、単に一発ハメたお稚児さんに惚れて追いかけ回してるだけになっちゃうから、惚れて挿入れるにしろ、もっと順番とかがなあ。最初にハメてから惚れ込むというのがどうもただのボケたエロオヤジにしか見えないというか……

 いや、まあ、これはこの時点ではただのお遊びで書いた作品だったはずだし、ま、多少はね。……でもなあ、その後の本編でのイシュトのカメロンへの言動を見るかぎり、これやっぱり作者の中では本編に組み込まれちゃってるよなあ……。



『激突ナリスVSイシュト!PARTⅠ』

 王となったイシュトヴァーンの手に落ちたアルド・ナリス。

 イシュトはナリスの態度に激昂し、力づくでものにしようとするが……


 きんも! きんも~~☆

 まさかこの時点の、ぼくにとっては全盛期の栗本先生の文章にこんな気持になるとは思わなかったよ……。もう御堂筋くんみたいにキモっキモっいいながら腕をシュッシュポッポって回したい気分になってしまったよ……

 ま、ここでキモいのはね、ほんの二ページ前にあるさっきの『一夜』とイシュトのキャラが変わりすぎているという、その一点に尽きるね。

 なんかもう、さっきまで魔少年ですぜいぇ~いって感じだったイシュトが、ナリスを褒め称えてチンコーたまらんみたいなこと一人でいってるキャラになってるの。なんだそりゃ。もうナリスに出会った人間は元の性格に関係なく、ナリスを崇拝して褒め称えてオギオギして勝手に身悶える変態になってしまうという宿命が待っているんですなあ。そりゃまあ、本編でも最初からその傾向があったとはきいえ、ついさっきの短編との変化にそりゃキモって思わざるを得ないわ。

 ま、まあ、イシュトはキモいし、別人にしか見えないけど、捕らえられても気丈に相手を弄んで支配するナリスは悪くないかなって気が……うう、ダメだ……多分リアルタイムで読んでいたら「さっすがナリス様!話がわかる~!」くらいの勢いで騙されていた気がするけど、いまのぼくはナリス=オタサーの姫にしか見えない病気になってしまったから、ナリスの言動すべての語尾に(暗黒微笑)ってついているようにしか見えなくて辛い……辛いんだよ……



『激突ナリスVSイシュト!PARTⅡ』

 モンゴールの将軍イシュトヴァーンを捕らえることに成功したアルド・ナリスだったが……


 これはさっきの逆パターン。逆カプってやつっすね。

 こっちはこっちできんも~☆

 今度はナリスがマジキモいのね。

 なんかずっと「なんで私を裏切ったんだい」「私を裏切ったからには許さないよ」「私はこんなひどい奴なんだよ」「顔は美形だけど心は醜い魔物なんだよ」的なことをず~っとず~~~っとず~~~~っと言い続けているだけの話なのな。

 そんで巨人の奴隷にレイプされてるだけのイシュトはもう、イシュトという名前のオナホになってるのね。ろくにまともなセリフもないし、完全に空気嫁相手にSMプレイしているナリス様の姿しか目に浮かばないわさ。いや、ナリス様は大金持ちだから空気嫁じゃなくてオリエント工業製のリアルドールかしら。いやあ、どちらにしても非モテ臭ぷんぷんっすわあ。

 栗本先生はすごいなあ、攻めになったキャラはだれであれ的確に気持ち悪くなる。これ才能ですな。元のキャラ関係なしにどうやっても気持ち悪くなるんだもん。つうか攻めている方が受けとコミュニケーション取る気一切ないのね、基本。ずっと一人でうわごと云ってるの。セックスシーンじゃなくて壮大なオナニーシーンですよね、栗本先生のエロシーンって。いやあ、サイコですわあ。怖い怖い。

 そして夢オチ。さっすが同人誌~!



『座談会小説「やおいだよ」』

 で、で、でたぁ~~~!

 ある意味この本の目玉!

 栗本薫がファンの四人と語らっている風の妄想座談会だぁ~~!

 ここまで痛々しい企画、現代の同人誌じゃそうはお目にかかれやせんぜ旦那……!

 こいつはまさに読むドラッグ、昭和の遺産だぜ~~(注:1990年の本なので平成です)。


 いやあ、でもまあ、無駄にファン四人に設定つけてそれっぽくしているところとか、嫌いじゃないぜ、おれは。ヤオイの苦手なグインファンとか、ホモ大好きなイラストレーターとか設定しているのね。途中で遅れて参加した風の演出とか入ったりとか。こんなん酒飲まなきゃ書けねえぜ普通。やっぱりこの人まともじゃねえよぉ。最高だぜえ。それをまあ、座談会しましたって断言しちまえばいいのに、「座談会小説」ってわざわざ書いちゃうこの「罠を仕掛けたらそれが発動する瞬間をこの目で見ないと気が済まない」的な元も子もない性格!たまんねえぜえ~~!まあ普通に読んでても四人もいるファンの反応がみんな似通っているというかわざとらしいのでおかしいとは思うけどさあ。つうか普通に座談会だと思って読んでて「いやいや、これ作ってるだろ。ねーよ、キモいよ」と思ってタイトルよく見たら座談会小説だったんだけどさあ。

 いやあ、でもね、これは許す。こういう痛々しくてとうてい真似できないようなことをやってしまう蛮勇はもう賞賛するしかないよ。痛くていいんだよ、みんな。物書きなんて痛さを見せてナンボなんだよ、みんな。カッコつけんなよ!もっと熱くなれよ!(読んでる方は寒いけどね!)


 あとの二編『日付のないラブソング』は『妖花 ルビーアンソロジー』に、『前髪心中』は『元禄心中記』と、それぞれ商業作品に収録されたので割愛。


 あとはそれぞれの作品の扉のイラストを天野喜孝、小林智美、吉田秋生、下山二郎という錚々たるメンツが描いているのも圧巻。(すみません、そういいながら下山二郎って方だけまったく知りません)プロの売れっ子になにやらせとんねんと思うが、天野先生と吉田秋生はちゃらっとした適当な線絵しか描いてないからまあこんなもんですよね。小林智美だけがんばって描いちゃってて「智美……いいのよ……パイセンのお願いでもそんなにがんばらないでいいのよ……」という気持ちになった。(しかし他のキャラはカッコいいのにナリスだけ全然だな小林先生は。なぜおとなしく江森三国志の孔明みたいに描かなかったのか……)


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