132 魔界水滸伝 17

1990.01/カドカワノベルス

1992.10/角川文庫

2003.10/ハルキ・ホラー文庫

2016.11/小学館P+D BOOKS

<電子書籍> 有

【評】 うなぎ∈(゚◎゚)∋


● タコ「うわーッ、来た!」

 

 雄介たちが消息を絶ってより二ヶ月。彼らの行末を案じる相模忍は恋人のたまこ、小角、柴をともない魔界・葛城へとおもむく。そこで待っていたのは、滅びゆく葛城の宮の姿だった。一方そのころ、魔都ルルイエにたどりついた雄介たちは、ついに敵の巨魁クトゥルーに相まみえる。果たして多一郎を救出することはできるのか――


 冒頭、カメラを人間界の忍に移して、雄介たちが次元ワープしたときのゴタゴタでさりげなく魔界が消滅の危機に瀕していることがわかり「え、また戦ってもいないのに全滅しそうなの!?」という衝撃の展開が明かされる。

 基本的に少年漫画的な話でないことはわかっていても、なにもしていないのに勝手に死にかけって……という展開には唖然としつつも、やはりピンチはピンチなので盛り上がると云えば盛り上がる。


 一方ルルイエでは雄介たちがクトゥルーと会見。

 お魚の都として意外と親しみやすいルルイエの情景にかるく肩透かしを食らっていると登場人物たちも「意外と異質じゃないな」「な」と納得しはじめる。

 そしてついに雄介たちの前にクトゥルーがあらわれ、詳しく描写される。登場前後の例の呪文「ふんぐるい むぐうるなふ いあいあ」も相まって、ちゃんとラスボスの威厳をともなう大物感がある。

 が、やはり意外と話せるおじさんであり、長文で色々説明してくれるうちにどんどん威厳がなくなっていく。

「禍津神ってなんなのか教えろ」と迫り「多一郎に会わせたらわかるよ」と加賀先生に提案されすっかり言いくるめられる辺りで(このおじさん、オレオレ詐欺に引っかからないか心配だわ……)と田舎のじいさんに対するような気持ちになってくる。さらに実際に多一郎のところに案内することになると「ちょっと待て。われにもいろいろと準備することがあるゆえ」とか云いだして、お前はサプライズパーティーをしたいリア充かなんかかという気持ちになってくる。

 さらにこの後、解放した多一郎が正気をうしなっていて暴れはじめると「あとは知らん」とか云って逃げ出すわ「うわーッ、来た!」とか云って怯えるわで、完全にラスボスとしての立場を投げ捨てて萌えキャラになっている。周囲でうろうろしているダゴンおじさんも戦うことないままただの中間管理職となり、なかなかアットホームな職場感が出ている。

 

 そのまま正気を失った多一郎はあらゆるエネルギーを吸収してあっという間に数万倍のパワーに膨れ上がる。ゴロゴロ転がって無制限にとりこんでパワーアップって、塊魂かよ。みんなだいすき塊八岐である。

 その塊八岐に対抗するため、雄介も禍津神の本性である負のエネルギー塊ブラックホールとなって、地球上空で白と黒の二つの太陽の戦いがはじまる。その力は女媧すらも上回り、影響で魔界はどんどん崩壊していき、ついに野々村さんがさりげなくモブ死して、多一郎のせいで地球ヤバイ、というところで決死の女媧がとびたって続く。


 はい、今回もあらすじだけでなにがレビューだよ感が出てきましたが、この巻は面白かった!のである。

 少年漫画・青年漫画的なカタルシスがなかなか訪れずもやもやする一方で、いつの間にか魔界がピンチになり、しかもクトゥルーも小者化し、多一郎と雄介の戦いで地球がヤバイという、なかなかストーリーが進まないと思っていたら突然クライマックスに突入しているという、予測のつかないめちゃくちゃな展開が、再読でもなお先が気になってページをめくる手が速くなるのである。二つの太陽としてぶつかり合う雄介と多一郎の姿を、右往左往する鬼や人間の姿をじっくりと描いて大カタストロフ感を演出する終盤の展開は大変に良い焦らし。

 クトゥルーの神々対妖怪連合というどう考えても盛り上がるコンセプトの作品が、それを完全にスルーして意外な方に突き進むのは痛し痒しではあるか、しかし先が読めないのは確かで、華子ちゃんが「すべてわかった!ここは……」と思わせぶりなことを云いながら次元震にのみこまれていく姿に「おい、最後まで云えよ」とツッコみながら気にならざるを得ない。なにがわかったんだよ!あたしは新の四巻まで読んでてもなにもわからないわよ!?


 結局、いろいろうやむやのままに第二部が終わり、放置され、第三部がはじまるも中絶することがわかっている現在の目で見ると白白とした気持ちはあるのだが、純粋な目で見るとまるで予想外で先が気になって仕方のない展開だ。

 本当は第二部の最初の数巻でちゃんとクトゥルーの勢力と戦って、中ボスの一人も倒して、クーデターがあって……とある程度のまとまりやカタルシスのある流れがあったうえで、この展開だったら最高だったのだけどね。

 

 しかし、初読持からいまにいたるまで、この作品世界における時空間移動というものがよくわからないんだよなあ……。さらっと時渡りの能力をもっているウシマツなる能力者が仲間になったと思いきや簡単に死ぬし、クトゥルーは時空間を超越した存在なので人類も先住者も勝てないってことになったり、でも後の外伝ではさらっと多一郎がタイムトラベルして戦国時代に行っていたり、本当によくわからないんだよ……。時空間移動は大変なことなの?たいしたことじゃないの?どっちなの?

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