130 パロスの剣

1989.10/角川文庫

<電子書籍> 無


【評】う


● 自称サバサバ系殺すべし!慈悲はない


 パロス第四王朝末期。時の王アルディウスのただ一人の子であるエルミニアは、自らを男の心を持つと自称する勇敢な姫だった。隣国カウロスの強硬な政略婚姻を避けるため、王はエルミニアに臣下との結婚を求めるが、彼女は城下で洗濯女フィオナと出会い、恋に落ちていた――


 今作はもともと、作画・いがらしゆみこ、原作・栗本薫のコンビで描いた同名の少女漫画が先にあり、そのノベライズという形で漫画の完結後に書かれたものだ。今作の表紙もいがらしゆみこが描いている。どうして『キャンディ・キャンディ』の作者と組むことになったかは、巻末解説でいがらしゆみこ当人が書いているが、要するにドジ様を通じて友達になったからである。

 そのため今作は少女漫画であること、王子や王女が出て来る物語であること、宝塚風であることなどがはじめにあり、よって主人公は男装の麗人でレズとなったのである。無論、『リボンの騎士』の影響も大きいのだろう。つまり少女漫画の王道をいく話なのである。

 ゆえに、王道少女漫画読みとは感想が大きく異なるのかもしれないが……クソ女ムカつくなあ、もう!


 今作は自称サバサバ系のクソ女が甘やかされていることにも気づかず調子に乗って無自覚なワガママを言い続けファッションレズに走り痛い目を見るもなお懲りずにわがままを続け周囲の人間と国を滅ぼすという、自称サバサバ系を滅ぼさなくてはいけないという使命に駆られる物語である。

 

 栗本薫と云えばとにかく恋愛脳でワガママでメス丸出しなのが長所でもあり短所でもあるのだが、今作は本当にクソ女の部分のみで出来ている。そもそも少女漫画にわりとよく出てくる、ヒロインに好意丸出しなのに当人にだけは気づかれていない、なのにどう考えても気づいていいように利用しているようにしか見えないハイスペック当て馬というのが、ぼくはもう嫌いで嫌いで。ほんとうにもう、安牌として確保しておきたいけどつまらない相手だから失敗してから戻ってくるね的な女の願望が丸出しで本当にもう嫌いで嫌いで。

 よく男性向けラブコメで女の好意に気づかなかったり女の告白を聴き逃したりする主人公に対して「難聴クソ野郎!」という罵声が飛ぶが、あれとほとんど同じ感覚で、こういうキープくんを弄ぶ少女漫画のキャラを「鈍感ぶりっこクソ女!」と首相撲からのチャランボを決めてやりたくなるのだ。ふれよ!ちゃんと!胸糞悪いなあ、もう!

 そんなわけで、今作も徹頭徹尾ハイスペック当て馬のユリアスくんがいいように弄ばれるさまに拳を強く握りしめて『YAH YAH YAH』を流したくなってしまうのだ。必ず手に入れたいものは誰にも知られたくないし(白い粉は関係ないです)今からそいつを殴りにゆくのである。


 まあそんな当て馬への扱いは置いといても、このエルミニアという主人公がとにかくあらゆる思考がメス丸出しでまったく凛々しくない。サファイア姫やオスカル様のような強さが微塵もなく、とにかくワガママで視野の狭いクソ女にしか見えない。男装の麗人キャラは凛々しさの中に女が垣間見えるのが魅力だろうに、ここまでメス丸出しだと本当に終始イラッとする。だからヒロインのフィオナを見初めてもファションレズのための道具にしているようにしか見えないのだ。そもそも選んだ理由がまた顔だけだし……薫はもうちょっと顔以外の理由で惚れさせてよ……きっかけちゃんと作ってよ……。

 薫の百合は基本的に薫がタチの麗人になりきって書いているのだけど、無自覚なところでメス丸出しの薫が男になりきっても痛いだけだし、百合やってもいつもネコ役を健気で従順な仔猫ちゃんにするから、面白みに欠けるんだよなあ。


 しかしまあ、そういう個人的に冷める部分やムカつく部分は抜きにすると、展開自体は少女漫画の王道だし、なかなか読ませる作品ではある。ことに中盤、武芸大会があってそこから一気に戦端がひらかれ急展開するところは面白い。特に悪役のファオン王子は、悪役なのに作中でもっとも人格がまともで頭がまわり武勇に優れどこか陰もある、という魅力的な人物として描かれている。その人物を敵に回し、絶望的な状況で、どう物語が展開し収束するのか。そんなにページ数ないけど大丈夫なのか。


 そう思いながらめくっていくと、唐突に「その後の彼らを知るものはいない」

 打ち切りかよ!

 ノベライズなのに打ち切りかよ!

 ふざけんなよ! なんだこの終わり方は!


 いや、打ち切りのはずはないんだけど、どう見ても打ち切りにしか見えない投げっぱなしエンドなのだ。

 別にアンハッピーエンドでもいいし、愛のためにわがままにぼくは百合だけを傷つけない(ただし国は滅ぶ)でもいいけど、展開の作り方がまったくなっていないから、打ち切りエンドにしか見えない。もっとちゃんと主人公が苦労して色々積み上げて、そのうえで愛のためにすべてを捨てる展開にしてくれなきゃ他人の苦労も願いも無視して衝動だけで行動するクソ女でしかないじゃんよお。まったく盛り上がんねえよお。

 しかもいいように利用していた当て馬ユリアスくんに「生まれ変わったら一緒になろうね」みたいなこと云いだして、お前は松田聖子かよ!生まれ変わらずに一緒になればいいだろ!つうかやっぱり明らかに好意に気づいていただろこのクソ女!という気持ちが最高潮に高まって終わるので胸糞悪いったらない。

 しかも他のキャラはわりとひどい目にあってるのに、自称サバサバ女だけあんまり辛い目にあってないしよ~。ボロボロに犯してどうぞですよ、こんな奴。「お前がママになるんだよ」するべきだったんですよ!


 文章も、当時のこととてあまり崩れてはいないのだが、少女漫画であることを意識しているためか、グイン・サーガよりも軽めの文章になっており、どうにも擬音が多用されているためか、いささか手抜きめいて見える。いや、テンポよく進めたい場合にくどい文章よりも擬音を効果的に使うことはアリだと思っているのだが、今作はちょっとやりすぎでしょう。


 そんなわけで、面白いつまらない以上にムカつく話であり、そして投げっぱなしエンドに釈然としない話であった。薫のファッションレズにはいつもガッカリですよ。グイン・サーガの関連作とはいえこれは読まないでいいと思います。やっぱりあの終わり方はひどいよ……。

 ちなみにこの小説版は文庫で出たっきりですが、いがらしゆみこの漫画版は角川で出て、中公で出し直して、文庫化して、電子書籍化して……となぜかわりと何回も入手する機会が発生している。まあ、単にいがらしゆみこ作品が一括でそうなっているだけみたいだし、漫画版もいがらしゆみこ作品の中ではわりと空気ですけどね。


 ところで、他の人にはまったく関係ない話なんですけど、、ぼく、昔「中盤で武芸大会があって決勝戦で異変が起きて戦争になる」という展開のファンタジー小説を書いたことがありましてね……。今作の内容に関しては、今回再読するまでガッカリレズであることとなんだそりゃなエンドであること以外すっかり忘れていたんですが、もしかして影響されていたんですかね……ただのベタな展開をやったらかぶってしまっただけですかね……無意識に覚えていて真似していたんだとしたら、なんかぼくが切ないですね……。

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