129 魔界水滸伝 16

1989.07/カドカワノベルス

1992.07/角川文庫

2003.08/ハルキ・ホラー文庫

2016.10/小学館P+D BOOKS

<電子書籍> 有

【評】うな∈(゚◎゚)∋


● 魔王アザトート登場(二体目)


 茨木童子に懐いた魔界王フランシスを仲間に加え、謎の少女・セイヤを助けるために、魔都パリの地下にある次元回廊を越えていく雄介一行。たどりついたのは不定形のゼリーに包まれた不気味な世界、惑星カダスであった。そここそは、万物の王の中の王、魔王アザトートの封じられている場所なのだ――


 なんだろう……なんかこう、面白いような気はするんだけど、不思議と乗り切れないの……二部が始まってからずっとそうなんだけど、一巻ごとにどんどん「なんかどこがどうとは云えないけどこれまでより微妙な気がする……」って感覚が抜けないの……。

 ゼリーに覆われ、カオナシみたいな生き物が闊歩する惑星カダスの暗黒都市はそれなりに面白いと思うし、がんばって気持ち悪いものを空想して書いていると思うんだけど、雄介たちがやたら強いというか、むしろ「かなり強いらしいんだけど実際にちゃんと戦ってないからどういうふうに強いのか、どこからがヤバイのかわからない」という状態になっていて、ピンチなのかどうかさっぱりわからないんだよね……。

 というか、第二部は超能力バトルものなんだから、パワーアップしたら雑魚でも中ボスでもいいから適当なところで戦って主人公や味方の強さ見せてくれないとどうも展開にメリハリがないというか、第一部のラストでクトゥルー十二神とか登場させて、「うわー、こいつらとどんどん戦っていくんだなー」と思ってたら、第二部開始して五巻も経つのに倒すはおろかタコさまがたーさんのところに気さくに会話しにきてくれたくらいで、ほとんど出番すらないから「いつになったら妖怪大戦争はじまるねん」という気持ちになるばかりなんだよね……。雑魚軍団くらい無双していいんだよホント……。

 ていうかこの巻の頭の魔界王フランシスとの戦いこそようやくめぐってきたその場面だよね……なんでバリアー張ってたら泣き出したので茨木童子があやしにきて戦闘終了してんの……一定ターンガードしてたら終わるタイプのイベント戦闘じゃん……しかも敵の攻撃弱すぎてなにもピンチにならないじゃん……。ていうか魔界王の正体、前巻でバラしてたの盛り上がり的にどうなの……茨木の夜伽開始でシーンチェンジして、それからこの戦闘はじめて幼児だったわかって茨木が出てきた瞬間に回想したほうがよくない……?

 あ、そうか、栗本薫の特徴でもあり欠点でもあるのって、時間の流れに沿って進めるって書き方の徹底だから、めったにカットバックするシーン入れたり、回想で過去の時間軸に戻ったりしないからか……あれのせいで盛り上がりに欠けるシーンが続々生まれてしまうのか……。おかしいな……初期作品からそうだったっけ……? たしかにある時期からは全部そうだけど……。うーん、変な小説家!


 まあ、そういう愚痴はともあれ、惑星カダスである。魔王アザトートが封印されているのである。

 カダスって惑星じゃなくてドリームランドの山だった気がするしアザトートが封印されているなんてほかで見たことないけど、そこはまあ栗本薫のオリジナル設定ということで納得してもいいよ。

 でも、アザトート様、ナメクジカエルとしてすでに登場していましたよね……? クトゥルー十二神の一柱に数えられていましたよね……? なんで万物の王の中の王たる白痴の神っていう、本来の設定に戻っているんですかね……? その上でクトゥルーとアザトートがグレート・オールド・ワンズの主導権を争う二大派閥で現在はクトゥルーが一歩リードしているって、またオリジナル設定ぶっこんできましたね……?

 そんなアザトート様、惑星を覆うゼリーの海そのもので、その海の中にいる巨大な赤子という設定になっている。カダスの黒瑪瑙城とは宇宙から見たこのアザトートの身体そのものであり、アザトートが黒瑪瑙城に封じられているとはゼリーの海の中にいる状態を指していたのだ!と加賀先生と風太が神話の考察をしていましたけど、そもそも黒瑪瑙城にアザトートが封じられているってぼく聞いたことないから「そういう解釈か!」とはなりませんでしたね……。

 いやまあ、アザトート様が四肢のない巨大な赤子である、という設定は良いと思いますけどね。というかこのまかすこのイメージが強すぎて、ぼくの中ではアザトース様は赤さんのイメージで固定されてますけどね。


 そんな赤さんが一行に、自分たちが死ぬ時の幻影を見せてくる。つまりはるか先の展開らしきものを読者にチラ見せしてくるのである。これは先を気にならせるえげつない展開だー。ただしそこにたどりつくことなく終わることを知っているいまのぼくには虚しいだけですね……。でも初めて読む人は『七人の魔道師』やリンダの予言同様、先を読ませる力になるシーンなんじゃないかな。

 でも加賀先生、最後のセリフ(予定)が「愛してるよ、忍」というホモ宣言なのはいただけないわね……。忍が惚れてるだけかと思ったら先生もかよ。このホモ小説が! まあこの程度のホモさならぼくは気にならないんですけどね。


 そして暗黒都市に入って、竜二助けて、やたらと事情通になっている竜二からクトゥルー側も次元が崩壊しそうになっていてこちらの次元に避難するために侵略してきている、という極めて重要な情報が特に盛り上がりのないまま告げられる。栗本先生、昔からそういうところはあったけど、まかすこ二部になってから盛り上げるべき重要な情報とどうでもいい情報の演出まちがってないかしら……? 自分の子供に萌えている気持ちを魔界王ちゃんにぶつけるよりも、こういう重要な情報取得時にもっと盛り上げるべきなんじゃないかしら……?


 そしていろいろあってカダスから脱出し、そもそもの目的であった謎の少女セイヤを探そうとするもどうにも見つからない。なぜなら彼女は第三部にいるからです。どうしようかと迷っているとダゴンが襲来してくるのですが、確実にダゴンも雄介も作者も安西英良の中からダゴンが出てきたことを完全に忘れている会話をします。ダゴンさま、あなた雄介のこと自分の息子呼ばわりしてたじゃない……設定忘れないでよ……。


 アザトート様のこともそうだが、ダゴンといい、また第二部開始当初の地球の状況といい、どうも第二部は一部の続きというより、一部のパラレルワールドの続きのような気がする。『真夜中の天使』と『翼あるもの』の関係のように。いや、ま、作者がうろ覚えで書いてるだけなんだろうけどさ……。

 こういう部分、コアな読者はもちろんのこと、編集者もかなりの部分は気づいていたと思うんだよね。でも、栗本薫は初期のころに校閲とかに対して「ママイキ」で突っ返したことを誇らしげに語っていたから、そういう繰り返しであんまりツッコまなくなっちゃったんだろうね……。それで最終的に誤字だらけになって「辞書ソフトが悪い」とか云うようになってしまうのね……。若い頃のつけがまわってきたってやつね……因果ね……悲しい……。


 そんなわけで、いよいよクトゥルー十二神とのバトルかと思いきや、大人しく捕まってルルイエに連行されることになります。いつになったら強い敵と戦うの……? ダゴン様が金牛宮に相当するんじゃないの……?

 戦う力がないから各地で戦力を集めているため逃げ回るような話になっていたと思われていたまかすこ第一部だが、どうも戦力があっても観光気分が抜けないため、根本的に雄介はあんまり戦う気がないらしいと、このころになってようやく気がついてきたね……。


 なんかあらすじ書いているだけじゃないですかこのレビュー?

 しかしなんだろう、まだ面白いとは思うんだけど、どことなくページをめくる手が遅くなってきているのはなんでなんだろうか……。どこがどうとは指摘しづらいんだけど、なんとなく一部よりパワーを感じないんだよね。多分、二部に対する批判で「ホモになった」が挙げられるのは、具体的に云えそうなのがそこぐらいだからで、みんな「理由はよくわからないけどなんとなく面白くなくなった」と思っているんじゃないかな……。

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