135 魔界水滸伝 18

1990.06/カドカワノベルス

1993.01/角川文庫

2003.12/ハルキ・ホラー文庫

2016.12/小学館P+D BOOKS

<電子書籍> 有

【評】 うな∈(゚◎゚)∋


● 【追悼】ニャル様、出会い頭で逝く


 記憶を失い、古代日本でスサノオとして八岐大蛇との戦いへおもむく男。仏陀、ジーザス、織田信長、由比正雪、そして全共闘の革命家……禍津神の辿った転生の数々を雄介は流転する――



 外伝かな?

 という印象を抱かざるを得ない。おそらくこの巻をまるまる読み飛ばしてもストーリーの理解にほとんど支障はあるまい。なにせこの巻の出来事は基本的に全部なにものかの精神攻撃による幻覚なのだから……。

 第二部も終盤にさしかかったとこで、大胆な寄り道だ。その肝の太さすげえなとは思うし、次々と転生していきあらゆる時代を描いていくのは面白いと云えば面白いのだが、さすがに一巻丸々だと「全部幻覚かい!」という気持ちがないといえば嘘になる。ことにスサノオ時代にこの巻の半分が費やされているのはやりすぎじゃないですかね……。


 そんなスサノオの幻覚を見せていたのがニャル様であると唐突に判明し、名前が呼ばれたそのページのうちにそいやと一撃で斬られてニャル様が死んだ。あ~んニャル様が死んだ!無貌薄命なのね……くすん。

 出会い頭のワンパンで死ぬニャル様って、しかしすごい扱いだ……。幻覚攻撃してくる辺り、ガメラだったはずが本来の這い寄る混沌に近づいている感じはしますが、しかし一撃って……。あ!いま気づいたんだけど、ニャル様がガメラだったのって、這い寄る混沌を亀の歩み的に解釈してたのかしら? その発想はなかったわ……。


 そしてキリストのくだりでは気さくなルシファーおじさんの再登場である。ここでも出てきてたんだね……完全に忘れていた……。

 そして前巻で混乱していたぼくを見計らったように、時空間移動に関して説明してくれる実に親切なルシファーおじさんだ。いろいろ説明したが、要するに時空間移動できる敵が存在する上で現在まで滅びていないのだから、すでに干渉されたけどなんとかなったというのが歴史なんだろうという、広瀬正が『タイムマシンの作り方』で示した「過去を改変してもすでにその事自体が歴史に組み込まれているよ」タイプのパラドックスの解決方法である。

 そしてまたルシファーおじさんのおかげで、どうやら雄介の捜し物は未来に一つ、はるかな過去のアトランティスに一つあると判明する。すごいやおじさん、なんでも知っているんだね。どうやって知ったのかは不明なんだね。「なんでおっさんそんなこと知ってるんや」と云いたくなるような情報を教えてくれる昔のゲームの町の人みたいだ。

 ともあれ未来にあるのは『新・魔界水滸伝』に登場する雄介の息子シリン・レイのことだろう。

 とすると構想にあった時空を超えて編というのは、銀河戦争のあとは過去のアトランティス時代に戻る構想だったのだろうか?


 ところでこの巻の感想じゃなくて前巻に書くべきことだったのだが、竜二という存在も本当によくわからない。

 当初は安西兄弟二人で禍津神、というように説明されていたのが、いつのまにか雄介単体で禍津神になっており、竜二は西海竜王ということになっている。ちなみに西海竜王という単語はこの後「そのことはちゃんと説明したよね」くらいの感覚でいたるところに出てくるが、17巻のなにげないシーンでいきなり確定事項のように書かれたのが初である。その前は役行者が「こやつは竜神よ」と云っていただけである。雄介と竜二の関係はいったいなんなのか。

 そもそも開始時に雄介は35歳で竜二は大学生なので、ダブっていなければせいぜい22歳、限界までだぶってても26歳だろうが、年齢差はどうなっているのか。ふたりとも幼少時の記憶がないということに途中からなったが、十代のころや二十代のころの雄介の記憶で明らかに数歳しか歳がちがわないようにしか見えないのはなんなのか。適当に設定してしまっただけなんだろうが、歳の離れた兄弟だということを忘れ過ぎではなかろうか?

 そして西海竜王とはなんなのか。第一部では海の支配者として海竜王というのがたびたび出てきたが、それとは別人のようだ。そして第一部ラストで記された108星には海竜王、東竜王、西竜王、南竜王、北竜王、黒竜王、白竜王、赤竜王、青竜王、黄竜王と「水増しかな?」というレベルで竜族が連なっているのだが、安西竜二の名はそれらとは別に記されているので、このどれかと同一人物ということもない。あまりにも平然と西海竜王西海竜王と連呼されるのでそんな気持ちになっていたが、一体何なんだ西海竜王……中国神話の四海竜王のことなのだろうか……だとしたら残りの三竜は……そして108星にいるたくさんの竜はいったい……うごごごご……。


 しかしいよいよ八岐と禍津神の正面衝突!と思わせて、全然別のことをはじめて謎を増やすのはいかがなものか。謎が増えるので先は気になるのだが、一度ガツンとバトルするなり謎解きするなりしてスッキリさせてもらえないものだろうか。

 でも、このカタルシスが欲しいところでひょいとかわしてもやもやさせるのも、謎を増やすだけ増やして伏線回収しないのも、栗本薫のいつものことだし、そのやり方が功を奏して読者が途中で降りられなくさせているのも事実なんだよね……。

 でもまかすこはぐにゃぐにゃ曲がってスッキリさせてくれなさすぎではあるかな……ようやくニャル様を倒すという大イベントがあったのに、そこはあっさりと流して終了だしね……。しかもクトゥルーの神々と戦うという当初の設定から想像される戦いらしい戦いって、ここが最初で最後ですよね……。ホント、変な話だーよね、まかすこって。もうちょっとだけ素直に妖怪大戦争してたほうがよかったと思うよ……。


 そんなわけで先が気になる気持ち半分、はぐらかされたような気持ち半分の複雑な巻でした。

 先の展開知っててもここからあと二巻クトゥルーとの戦いが終わるとはとうてい思えないよ……。

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