137 紫音と綺羅  上・下

1990.09/光風社出版

1998.06~08/光風社クリスタル文庫


【評】うな(゚◎゚)


● 華やかなりし時代のJUNE集大成


『小説JUNE』誌上で連載された、JUNE作家たちによるリレーホモ小説。


 はじめはJUNE誌上で栗本薫特集をやった際の、小説道場によく送られてくるようなリアリティのないやりすぎた設定で敢えてまじめに書いてみてどれだけ笑えるものになるか、という企画だった。なので雑誌掲載時は栗本先生自体が自分でツッコミを入れまくっている素敵な仕様だった。腐女子の一人遊びという感じの薄ら寒いテンションの高さが非常に痛可愛い。

 で、そのありえない設定というのは「美少年で学生社長でお偉いさんたちの性奴隷の転校生・紫音が、自分にうりふたつの美少年・綺羅に出会うが、綺羅は綺羅で天才舞踏家で家元の跡とりで男なしでは生きていけないド淫乱で、二人は生き別れの双子でした」というもの。たしかにやりすぎている。

 さらにそこに猿として虐げられていた巨根の下男や「弁天」と呼ばれる暴走族のヘッドとかも加わってきて、時の総理大臣とかも関わってくるようなおおごとになって、たしかにしっちゃかめっちゃかである。ただしこれは栗本薫だけのせいでこんなありさまになったわけではない。

 というのも今作は栗本薫の書いた一話目をひきついで、他のJUNE作家が続きを書いていくというリレー小説企画になってしまったのだ。そして収集がつかなくなったので、結局栗本先生のところに戻ってきて自分で尻をふいた、というオチ。

 リレーに加わったのは書いた順番に江守備、野村史子、吉原理恵子、森内景生、榊原姿保美、という当時のJUNE小説家オールスターと云うべきメンツ。


 トップバッターの栗本先生は、完全にギャグにしかならない設定で真面目に書くという、彼女にとってもっとも高度な笑いを見事にこなしてくれた。栗本薫の小説にはいくつかのコメディがあり、てがけた舞台にもコメディの要素が多かったが、どう考えても栗本薫の書いたコメディ最高峰はこの作品。やり過ぎを見事にやりきっている。


 江森備が二番手となったのは、おそらく小説道場の最高弟ということでむちゃぶりを受ける義務があったんだろう。そんなむちゃぶりをしっかり受けてしまう真面目さゆえか、彼女のパートは特に設定を上塗りしておふざけすることもなく、無難に書いてあるだけで、特に見るようなところはない。


 おなじく当時の道場では数少ない有段者であった野村史子のパートは、主人公二人が実の兄妹の近親相姦によりできた子供だという、さらなるありがちをかぶせてきてなかなか魅せてくれる。さらにその父と母の名前を薫と梓にするという、嫌がらせめいたおふざけも光る。栗本薫のつくったおふざけをうまくひきついでうまくふざけた感じだ。


 問題は次の吉原理恵子。門弟でないためか、栗本薫に対する遠慮がなく、栗本先生がいつものノリでとりあえず出しておいたチンコ要因のブサイクなせむし男系下男の猿丸が、このパートに入るなり唐突にすっくと立ち上がりキリッとした顔の美丈夫になって、本名も「タカ」と吉原先生がよく使う名前になりかわり、別のキャラと勝手にカップリングをはじめて、見事にやりっぱなしで投げた。リレー小説の醍醐味といえよう。


 次の森内景生は、ぬっちょぬっちょしたエロシーンが売りの方なので、無難にぬっちょぬっちょエロをしているだけだった。もっとも無難な仕事ぶりだった云えよう。


 もっとも意外なことをしでかしたのが榊原姿保美で、いままでまったく出てこなかった暴走族を平然と出してきて「えええええ? あなたの作品、暴走族とかそういう芸風じゃないじゃないですかあああ!」という気分にさせてくれた。本来の流れである旧家で伝統芸能で人間関係ぐちゃぐちゃ、というのは得意分野だろうに、なぜそこをひきつがずにわけわからん方向にいっただろうか? 得意だからこそ敢えてはずしてきたのだろうか? それともおふざけ企画だから流れとか読まずに、いつもはできないような好き勝手なことをやってみたのだろうか? 真相はわからないが、この企画を一番楽しんだのはこの人なんじゃなかろうか、という気がする。


 そんでみんなが好きなようにしたあとの後始末を栗本薫がしたわけですが、なんだかんだで結局いつもの栗本薫に落ち着いた。なんか旧家の人間がバリバリ死んで、色々あって主人公二人が踊って、なんか総理が泣いて、こうしてすべてがよくなった、みたいな感じで、べつに話自体はたいしてまとまってないのに雰囲気だけでまとまったような気分させるというアレ。

 まあ別に大層なテーマとか壮大な伏線があって広がった設定でもないので、おさめるとなるといつものアレにならざるを得ないというのは仕方のないことで、このとっちらかった話をよくもまあ完結させたものだと、その根性はさすがと絶賛したい。べつに優れたところがあるわけではないが、無難なところに落としただけで十分な成果だろう。

 最後の最後まで読む価値がある作品とまでは云えないが、好きなら読んでもかまわない程度のクオリティではあるし、上巻のリレー部分はまさにお祭りという感じで楽しめるので、たまにはこんなのを読みながら当時のJUNEをしのんでみるのも一興なのではないかな?

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