075 魔界水滸伝 8

1984.11/カドカワノベルス

1987.11/角川文庫

2002.02/ハルキ・ホラー文庫

2016.01/小学館

<電子書籍> 有

【評】 うなぎ(゚◎゚)


● 華子ちゃんは悪くないと思います


 ついにはじまった古き神々の地球侵略。だが対抗する先住者たちの足並みは揃わず対立を繰り返す。人類が絶望に立たされるなか、もはや魔都と化した東京に向かい、安西雄介軍団の進軍がはじまる――


 毎巻毎巻「超おもろい」って云っているだけのレビューになにか意味はあるのか……?

 しかしこの辺りのまかすこは本当にもう「おもしれえ」としか云いようがないのだ……。

 再開した竜二率いる部連合とともに山を降りて、雄介軍団が雑魚モンスターと戦うところからもうニヤニヤしてしまうのだ。指揮官として指令をとばす雄介の姿にも、それに小気味よく答えてどんどんキャラを立てていく猛者たちも、見ているだけで楽しいのだ。

 人類最大の味方であり、涼と加賀四郎を囚え米国とのあいだで謀略を働く目下の最大の敵でもある北斗多一郎のトリックスターぶりもますます輝いている。特にこの巻ではっきりと祖母の北斗礼津にはまったくかなわないことを示しつつ、藤原華子をあいだに挟んで礼津の意向に逆らいはじめ、多一郎もまた不安定な立場になっていくのが良い。

 そして鹿鳴館スタイルで触手大乱舞している華子ちゃんの活躍ぶり。悪役としてあつかわれているが、やっていることは夫である多一郎のちからになろうとしているのと、勝手に姫化して夫を寝取った涼を制裁しようとしいるだけなので、ぼくはべつに華子ちゃんはなにも悪くないと思うのです……多一郎と涼が悪いと思うのです……気持ち悪い悪役扱いはブサイクという以外に根拠が無いのです……!


 多一郎と対峙して正体や狙いを喝破する加賀四郎も面白いし、そこまでずけずけいって蛇嫌いになるところも楽しい。先生と多一郎の会話はお互い苦手同士っぽいのが良い。

 そして加賀先生一行が魔都と化した東京をさまようくだりも良い。脈動する謎の物体に作り変えられていく東京タワー。化け物の捕食場と化したレストラン――これから捕食されるのに気づかないふりをして笑顔でいなくてはいけないという描写のエグさが良い。作者自ら「この巻で人類は滅亡するはずだった」と云う、容赦のない文明の崩壊ぶり。

 そしてそんな滅亡から「自力更生」して主人公となった雄介率いる禍津神一族が人類存亡をかけて立ち上がる展開の熱さ! この巻のラスト、集結した雄介軍団の前に拠点となる巨大原子力潜水艦が浮上し、その名がアーク――ノアの箱船だとわかるシーンは、大戦がはじまる予感にゾクゾクする。


 と、結局あらすじ云いながら面白い面白い云っているだけの感想ですねこれ……。

 いや、しかし、雄介と多一郎の対立、多一郎と涼の関係、涼の存在を危惧する多一郎の部下たち、二派に分かれる先住者たち、そしてクトゥルーの侵略。さらには個々のキャラクターの生死も含めて、どこに焦点を合わせても面白くなるシーンが波状的に押し寄せてくるこのころのまかすこはどう考えても最高に面白いのだ……。

 あとがきで追伸を入れ、ファンに「秀英って女性名じゃねえか」とツッコまれたことに「そういえはそうだ。ごめん」と謝る薫もチャーミングである。

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