074 猫目石 上・下

1984.11/講談社ノベルズ

1987.07/講談社文庫

1997.10/角川文庫


【評】うな



● 名探偵対名探偵、やや企画倒れか


 なんか中森明菜みたいなお騒がせエキセントリックアイドルの別荘に、伊集院大介や薫クンが招待されたら案の定事件が起こって、一方その頃、薫クンはアイドルと運命の恋に落ちていて、しかし彼女には周囲の黒い思惑がうごうごうごめいていて、結論から云うと「どうしてエレクチオンしないのよー!」みたいな、そんなお話


 江戸川乱歩賞三十回記念ということで、受賞作家たちが一斉に書下ろした講談社ノベルスの企画作品で、上下巻の大作。

 内容もそれにふさわしく、伊集院大介VSぼくらシリーズの薫クン(作者じゃなくてキャラクターです)という、栗本先生のミステリー二大名探偵を共演させた豪華作品になっている。

 ……んだけど、まあ~、なんだろうね、この「自作の人気キャラが夢の共演」という、あまり使えない、使っちゃいけない手段を使用しておきながら、結果としては「ごめんなさい」みたいな中途半端感。

 いや、アイドルと恋愛させてストーリーのおいしいところは薫クンに、探偵としてのおいしいところは伊集院大介に、という配分自体は間違ってないわけですよ。薫クンは語り口が売りで探偵としての実力は大介の方がずっと上ですからね。

 ただねえ、やっぱりミステリーとしては弱いですよねえ……恋愛ストーリーに傾倒したせいでトリックとかがいいかげんというか。かといってストーリー自体も設定の恥ずかしさというか、なんだろうね、芸能界ものやテレビ局ものでデビューした栗本先生だけれども、やっぱ、ちょっと恥ずかしいんだよね、業界もの。だから、控えめにしていただければね、うん。


 また、この作品にはどうにもいけない部分があって、それはぼくらシリーズの薫クンが、この作品のせいでキャラクター的に死んだ、ということでして。オチのせいで現代っ子薫クン、この作品以降へらへらしたスタンスを取り得なくなってしまったんですよね。うーん、もっと地道にシリーズ続けてもよかったと思うんですがねえ。


 エピローグで、唐突に栗本先生の本気100%が発動。ぼく的にはたいそうエレクチオン、もとい泣けるラストシーンではありましたが、唐突すぎて陶酔しすぎていて一般人はひく感じになっていたんじゃないかしら?

 薫の本気はひく。ここ、重要だからメモしとけよー。

 そんなわけで、力を入れたわりにはいろいろな意味で残念な作品かと。いや、好きなんだけどね、ラストシーン。ホントにもう唐突すぎて。この唐突ラスト泣かせは『魔都』『いとしのリリー』と並び、強引泣かせエピローグ三部作と勝手に呼んでいる。

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