042 魔界水滸伝 4

1982.11/カドカワノベルス

1987.03/角川文庫

2001.02/ハルキ・ホラー文庫

2015.09/小学館P+D BOOKS

<電子書籍> 有


【評】うなぎ(゚◎゚)


● ニャル様ガメラ説


 砂漠に現れた風太らしき人物と会うため、雄介一行はエジプトへと向かう。だがフライト中にあらわれた《眼》結城大和は、飛行機がまもなく墜落することを告げる――


 ついにクトゥルー神話中でも人気ナンバー1といっても過言ではないあの御方〝這い寄る混沌〟ナイアルラトホテップ様の登場である。

 アザトースの使者であり、千の顕現を持ち人間に接触し、すべてを冷笑するなんでもありのトリックスターでしかも名前が猫っぽいニャル様は、定期的に美女とか美少女にもなるしヒットラーになったりもする、とりあえず出しておけば盛り上がる最強に便利な御方である。もちろんぼくもニャル様が大好きだ。たぶんクトゥルー神話好きでニャル様が嫌いな人などいるまい。さあ、そんなニャル様のまかすこデビュー!


 ガメラである。

 ガメラなのである。

 空を飛ぶ巨大な亀っぽいなんかで、怪獣呼ばわりされているのである。思いっきり物理系だ。

 そもそも全体的に栗本薫の趣味により、彼女の描く異形の化け物はタコとカエルと亀が多すぎる。多分亀は『デビルマン』のジンメンがベースなのだろう。しかしニャル様が超巨大ジンメンって……。

 このことについて栗本薫はあとがきで「これはあくまで私のクトゥルー神話と考えてください」「本来のクトゥルーに出てこない化け物もつけ加えるし、本来のと形状がちがっても、この方が物語に都合がいい、というので、ハネをくっつけたり足をとったりすると思う」と述べている。

 まあ、クトゥルーの神々の外見ってダーレスとかが後付で決めたようなところもあるから、別に厳密であれとはぼくも思わないですよ。でも、ニャル様がガメラって……全然混沌が這い寄ってこないですよ……這い寄る混沌ってところだけは外さないでくださいよ……っていうかニャル様のトリックスターぶりって凄い薫好きしそうなのに、なぜこんなことに……。


 しかしそういうあんまりな部分を抜きにすれば、冒頭のハイジャックから、砂漠の放浪、北斗多一郎による雄介への拷問、ニャル様一族の襲来、問われる雄介の正体、と物語がいよいよ妖怪大戦争のはじまりを感じさせ、やはり面白い。

 ことに前巻ではまだ顔見せ程度であった北斗多一郎が、いよいよサド紳士としてライバルキャラの本領を発揮してくれるのがたまらない。クトゥルーの侵略に妖怪たちとの不和、さらに人間にいる多一郎のような天敵の存在と、内憂外患を地で行く混迷の状況にワクワクが止まらない。ていうかやっぱりこの巻の描写だと100%多一郎さん人間ですよね……簡単に気絶してるし……そして個人的には多一郎さんは人間のままの方が良かったと思うますね……『寄生獣』の市長みたいにね……。


 ただ、個人的に、雄介がただの人間ではないかも……という展開になってきたのは、ちょっと残念だった。しかも自分が傷つくのは良いが他人が傷つくのは耐えられないっていうヒーロー体質になってて、涼が拷問されたら即ゲロったりするようになっているのも「おーい、あなたちょっと前にあっさり涼見捨てて逃げましたよねえ!?しかも涼はどうでもいいけど風太は惜しいなー」という感じでしたよねえ!?」とツッコみたくなってしまう。活動家時代に自分が育てた若いメンバーを内ゲバで皆殺しにしたっていう凄惨な設定好きだったのに……。主人公力あげすきで別人になりつつあんよぉ!


 と、内容自体は面白いのに、いろいろツッコみたくなる巻であった。

 そしてこの巻からノベルス版にも唐突にあとがきが登場。すっかり忘れてた……二巻の感想でノベルス版にはあとがきがないとか書いちゃったぜ……そして安西雄介の元ネタは『ガクエン退屈男』の早乙女門土だろうとか書いたけど、同じ永井豪でも『手天童子』の白鳥勇介って書いてある……そっちかあ~……。

 しかし、キャラクターの元ネタをべらべらしゃべりすぎて不安になるよ薫。『アオイホノオ』読ませて「パクリだと思われると尊敬されないからな」(うろ覚え)という炎尾くんの名言を聞かせてあげたいよ……。でもそんな薫のガードのゆるさ、俺は好きだぜ……。

 ちなみにこのあとがきでは全三部予定で三十巻くらいかな、と云っている。云うたびにコロコロ変わるが、いったい全何部構想が正しいのだ……。


 

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