041 魔剣2 朱雀ノ巻

1982.10/CBS・ソニー出版

1985.04/角川文庫

1999.10/徳間文庫

<電子書籍> 無

【評】 うな



● そして未完伝説ははじまった……!


 直次郎と新八郎を次から次へと襲う惨劇は、やがて将軍家をも巻き込む陰謀の姿を明らかにしていく――長編時代伝奇、堂々未完!


 基本的には一巻で広げた大風呂敷を、普通に展開させている堅実な二巻目である。

 様々な陣営の思惑が絡み合いなかなか全貌が見えない展開はジェットコースター的であり、かつての老中・間部詮房の将軍家乗っ取り計画が見え隠れするところなどは、江戸時代もの約束の展開として普通に楽しくなってくる。中でもあらゆる陣営におそれられる髑髏の魔剣士・髑髏兵庫は、さすがタイトルの由来だと思われるキャラだけあり、そのまんますぎる名前とともに異様な雰囲気や強さが印象的だ。

 血なまぐさいシーンの数々や主要人物の出生の謎なども絡み合い、長編シリーズの二巻目として、なかなか堅実に展開している。


 が、文章は明らかに雑になり、一巻目の講談か活弁かと思わせるような文章はすっかりとなりをひそめ、会話主体でストーリーが進んでいくいつもの栗本薫になってしまっている。一巻目で良いアクセントになっていた外来語の当て字も急速に少なくなりガッカリである。グイン・サーガの途中から「ウマ」が普通に「馬」と書かれるようになったり「ヤヌスの双面にかけて」とか云わなくなったのと同じガッカリ感である。

 風呂敷を広げつづけて終わりの形も見えずに中絶したところも含めて、文章の乱れといいキャラの無駄遣いといい、グインやまかすこの末路を想起させる栗本薫らしい長編といえるだろう。


 あとがきは一巻と立て続けに書いたものだけあって相変わらず本編より面白い。

 平井和正や高千穂遙を例に挙げながら未完で放置することへの言い訳を楽しくしており、今作をはじめとした自分の時代小説を「時代ふう伝奇SFふうヤケクソ小説」と呼び、時代考証しようとしたらとっくに発狂しているだろうと云ったり、とにかくこの頃の栗本薫の開き直りっぷりは面白いからしょうがない。書く予定もまったくないのにあとがきまでも「以下、次号へ続く」で終わらせて茶化していることも含め、このいい加減さは認めざるを得ない。

 上記した今作の出来自体はもとよりあとがきでの、「小説」ではなく不合理で不条理な「神話伝説のたぐい」が書きたいのだという言葉や、こういう物語は未完であるのが正しいのかもしれないという言も、グイン・サーガの末路を感じさせる。そういう意味では、栗本薫の創作姿勢のすべてがこの魔剣シリーズには詰まっているのかもしれない。薫ははじめから完結させることに意味なんて見出していなかったしそれを隠してもいなかった……それに気づかず全百巻で終わると思っていた我々が愚かだったのだ……

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