067 伊集院大介の冒険
84.08/講談社
86.08/講談社文庫
【評】うなぎ
● これぞ正しく安楽椅子探偵の事件簿
伊集院大介シリーズ初の短編集。
『殺された幽霊』『袋小路の死神』『ガンクラブチェックを着た男』『青ひげ荘の殺人』『獅子は死んだ』『鬼の居ぬ間の殺人』『誰かを早死させる方法』の七編を収録。
これは出来がいい。
出来がいいというか、とてつもなく無難な出来。
まず読みやすく、入り込みやすく、オチが毎回ちゃんとしており、いずれもが現代社会の病理をかるく掬っておきながら、説教臭くなったりせず、あくまでエンターテイメントに徹し、読み味爽やか、しかし考えさせられることは考えさせられる、そんな作品が揃っています。
この伊集院大介シリーズ、このノリでゆっくり順調にあと十年もやっていれば、マジで第二の山村美紗となり、テレビシリーズの華となることも可能だったと思うんだけど……栗本先生の性癖がそれを許さなかったんだよねえ……
と、この辺についての言及は後年の天狼星シリーズの項にゆずるとして。
個人的にこの短編集の白眉は『獅子は死んだ』と『袋小路の死神』。
『袋小路の死神』は、ある不良少年が袋小路で殺されたのだが、心当たりがありすぎてだれだかわからない。ところが犯人は意外にも……という話で、当人たちが想定している世界以外にも人間はちゃんといるのだということにハッとさせられて面白い。
『獅子は死んだ』は、一代で財を成した老人が、だれにも遺産をゆずることなく死んだ。果たして殺したのは一族の誰なのか……という話。ミステリとして納得のいくオチであると同時に、偉人を獅子、凡人たちをヒツジとなぞらえながらも「ヒツジは谷底にけおとされたら、這い上がれないからヒツジなんです。それは何も、ヒツジの責任じゃない」と、弱者の弱さを指摘しながら、それを受容する伊集院大介の冷徹な優しさがよくわかる好編。タイトルもいい。
他の短編群も総じて出来がよく、プロ作家としては申し分のない作品集。無難なミステリーを読みたい方は是非。
しかし、薫マニアとしては、薫ファイヤーが炸裂しないので食い足りないのも事実。素人にしかオススメできない。
短編集のタイトルを、金田一耕助シリーズの短編集『金田一耕助の冒険』に合わせているのも微笑ましい。
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