066 魔界水滸伝 7


1984.06/カドカワノベルス

1987.11/角川文庫

2001.12/ハルキ・ホラー文庫

2015.12/小学館

<電子書籍> 有


【評】うなぎ∈(゚◎゚)∋


● 100点満点のエンターテイメント

 呉をともない日本へと帰還する雄介。伊吹涼を連れ戻す北斗多一郎。北斗の研究所から逃げる耕平と夏姫。それぞれの運命が交錯するなか、富士の噴火により東京を火の海と化す――!


 ついにはじまる、日本の、世界の崩壊。

 核攻撃で敵ごと日本を消滅させるアメリカのXプロジェクト。多一郎と張り合う謎の力を見せる涼。逃げながら愛を確かめる夏姫と耕平。翼の民と鬼族の決戦。すべてを貫く富士山噴火による日本崩壊のはじまり。そしてみづちの若長として雄介の前にあらわれる多一郎によって告げられる雄介の正体――禍津神。

 もうどのシーンも面白いのに、それらが多視点で展開され、富士山噴火によりひとつの場所に集束したかと思えば、また広がっていくこの楽しさ。

 そしてまた、とんでも伝奇としての楽しさも満点。

 先住者とは遥か過去に宇宙よりやってきた外来種族であり、かれらとの交わりによってネアンデルタール人はクロマニヨン人へと進化としいうトンデモ進化説。力をつけた人類が数に劣る先住者たちを逐った事実が、各地の言い伝えの原初に親殺しの原罪が存在する理由であるという神話論も、精神生命体の文化を真似たゆえに、人間には使い方のわからない各地の古墳――ピラミッド、ストーンヘンジ、ナスカの地上絵――が存在するという説も、天皇やノアなどかつての指導者に長命が伝えられているのは先住者の血を濃くついでいるからだという説も、先住者という存在によってすべてのがつながっていくこのトンデモ説の快感!


 出会って五秒で即合体の夏姫と耕平のラブストーリーも、普通なら「また顔か」と思いそうなものだが、耕平の憎めないキャラによるものか、あるいは耕平とともにいるとこれまでの無個性美少女がウソのように生き生きとする夏姫のためか、妙に微笑ましく祝福したくなってしまう。そしてそう思わせてからの、残酷な展開!

 多一郎も登場するたびに冷酷で嫌味な奴になっていくのに、それでいて雄介と涼への自らでもゆえしらぬこだわりが魅力を増していく。そんな信用の鳴らない多一郎が人類にとって目下最大の味方であるという皮肉さも最高だ。

「おまえはま――」ドーンというギャグみたいな引き伸ばしでなかなか明かされなかった雄介の正体、禍津神が明かされながらも、禍津神がなんなのかはだれもよくわかっていないという設定により、謎が明かされながらより謎を深めるという面白さを生んでいる。

 また、涼がなんかホモになったり薬漬けになったりよくわからん化け物になって一般人視点が失われたかと思うと、すかさず生島耕平の視点でもって、妖怪大戦争を前にした人間の無力さ、悲しさ、悔しさを雄弁に語っていることも、物語をただの妖怪バトルにさせず、隙がない。巻の後半に耕平を襲う悲劇を思うとなおさらだ。

 加賀四郎とはぐれ、竜二たちと再会するという、不安を残しつつ安堵させる展開も完璧だ。なにより、これだけ多くのシーンを描き、多数のキャラを描いていても、生きていないキャラが一人もいない。みなそれぞれの人生と思考をもち、動いているという躍動感がある。だからこそ次にどうなるかわからないワクワクがある。


 一冊としての楽しさと、次を思う楽しさ。双方を満喫させてくれるこの巻は100点満点で100点と云わざるを得ない。作者が以前に考えたという映画版まかすこのキャストを発表しているあとがきのはしゃぎっぷりも含めて満点である。しかし生島耕平は水谷豊、というのを見て、隔世の感を感じる。そういえば若い頃の水谷豊はキレる若者キャラだったのう。いまだと逆に多一郎役よね、水谷豊。

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