059 グイン・サーガ外伝4 氷雪の女王

83.12/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 有


【評】うな∈(゚◎゚)∋


● マリさんイシュさん北欧道中膝栗毛


 自らの出自を求め、北の賢者ロカンドラスを探す豹頭の戦士グインは、吟遊詩人マリウスと、勝手についてきた傭兵イシュトヴァーンとともに、北方諸国を放浪していた。数々の危機を切り抜けた三人の道中は、やがて伝説の国ヨツンヘイムに向かっていく――


 グイン・サーガ外伝の中では評価が高いように思われる本作だが、二十年前に読んだときには自分の中ではあまり高く評価できる作品ではなかった。ところどころに良いシーンはあるものの、どうにも話が散漫で、終わり方も唐突だし、なにがしたい話だったのかわからなかったのだ。

 が、改めて再読してみると、なんのことはない、本作はロードムービー的な作りだったのだ。グイン、マリウス、イシュトヴァーンという絶妙な三人組が、ときには喧嘩したりときには一致団結したりするのをゆるい気持ちで眺めて読みながら旅情にふける、そんな作品だ。

 まあ、そう理解したとしても、二十年前の自分にはあまり楽しみのわかるものではなかったろうが、いまの目で見てみると、状況に合わせて狩りをし、服を着替え、犬ぞりを買い、その合間合間にゆるい喧嘩が入ってくるのが、なんとも云えずにほっこりとする。舞台が北方の雪国であることも相まって、気分は「グイサーどうでしょう」である。

 それもこれもこの世界の文化・服装・食生活から植物分布まで、しっかりと考え抜かれているように思われるディティールの細かさと、軽妙でありながら過不足なくそれを伝えてくる描写が冴え渡っているからだ。北欧神話をモデルにして作り上げられた光景や怪物たちは、決して斬新と云えるものではないが、三人のキャラに合わせたリアクションが良いのもあって確かな存在感を放ち、飽きさせない。

 初読時には知らなかったが、プレ・グイン・サーガと呼べるSFファンタジー『氷惑星の戦士』もまた、北欧神話をモデルとしていた。「これでは高千穂遙の『美獣』に勝てない」とシリーズ化を断念したかの作品のリベンジという気持ちも、この『氷雪の女王』にはあったのかもしれない。


 物語の終わり方が唐突であるのは、これは事実として唐突だ。なにせ今回のボス戦がはじまるぞ、というところで終わっているのだ。これはなんのことはない、次の外伝に掲載されている短編『白魔の谷―氷雪の女王再び』に完全に続いているのだ。合わせてようやく一本の話として完結している。

 なぜそうなったのか事情は知らないが、『氷雪の女王』の初出がSFマガジン臨時増刊号であったことや、単行本が微妙に薄いことなどを考えると、もともと『白魔の谷』の部分までを書いて掲載するつもりが、時間がなくて途中で切り上げたのではなかろうか。

 真相はわからないが、読む時は次の『外伝5 時の封土』も揃えて読んでいきたい。


 マリウスの淡い恋物語として語られることが多いが、その点についてはかなり薄味に終わっている。もう少し後の時期の栗本薫ならこの部分をねっちり描いていたと思うが、それがなかったのは良いことだったのか悪いことだったのか。一方で、本篇と合わせても数少ないマリウスの男の見せ場である、怪物を歌で眠らせるシーンは、小馬鹿にしまくっていたイシュトヴァーンが普通に感動している素直さも含めて良いシーンだ。その後の薫がいろんなキャラでやってはいつもわりと恥ずかしい感じになっている、「集中のあまり忘我の状態になる天才」を描いたシーンとしては稀有な成功例だ。


 本篇に合わせるように感想も散漫になってしまったが、「やはり三人の放浪者は最高である」という結論に尽きる。あと三作くらいこの三人のこのノリで外伝を書いてもよかったと思う。というか書いて欲しかった。

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