058 魔界水滸伝 6

1983.11/カドカワノベルス

1987.08/角川文庫

2001.10/ハルキ・ホラー文庫

2015.11/小学館P+D BOOKS

<電子書籍> 有


【評】うなぎ∈(゚◎゚)∋


● まったく先の読めない最高のエンターテイメント


 人間が半魚人のように変化する奇病、ランド症候群。この奇病の謎を追うルポライター生島耕平は、これが「地球外生命体の侵略である」という説を知り、怪しげな動きを見せている北斗科学への取材を敢行する――


 いきなり涼とキメセクしてる多一郎さんキモすぎぃ!そうかあ、ここでいきなりのホモ化してたんだっけえ。 あー!いたいた!生島耕平!ルックスも悪くないし腕も立つのになぜか三枚目になってしまう雄介の弟分!いたなあ、すっかり忘れてたけどけっこう好きだった。あれー、でもどうなるんだっけ?たしか途中で……ああ~そうだそうだ、ここで唐突に多一郎が完全に蛇化してて部下の鬼の面々が出てきてマッハ茨木が初登場で礼津ばあちゃんがいて、あー、藤原華子がここで再登場して、そうだよ、あ~そんでそう、囚われて、そうそう、漫画の主人公みたいなキャラだから漫画みたいになんとかなると思っててなんともならないのよね、で、どうなんだっけ……あ~、そっか、ここで夏姫が!あ~そうかそれでこの二人が。そうだったそうだった!いや~おもろいわ~!

 と、この辺りの流れはかなりうろ覚えだったせいで無性に楽しかった。


 いや、しかし面白い。

 この巻から物語が次のタームに入る。『デビルマン』は前半が悪魔との戦いを描いていたのに対して、中盤から悪魔の実在を認識したことによって人間社会が自滅していく展開となるのだが、完全にそれを踏襲している。ことにこの巻後半の研究所のくだりは完全に「きさまらは人間のからだを持ちながら、悪魔に! 悪魔になったんだぞ! これが! これが! おれが身をすててまもろうとした人間の正体か!」である。

 しかし、人間と妖怪、人間と人間、妖怪と妖怪、すべてが協調できておらずだれが味方かわからないという状況が、展開をいっそう読めないものにしており、元ネタとはまた違う面白さを出すことに成功している。そしてそのために一役買っているのが妖怪同士の関係を混乱させる北斗一族であり、若長である北斗・キメセク・多一郎の存在感と悪辣さが光る。

 さらには北斗一族の頭領である年齢不詳の女怪・礼津のかなわぬパワフル婆あぶりにウェッとなり、直後にその礼津が多一郎の再婚相手としてまかすこのヒロインである藤原華子嬢を連れてきてタッグを組んでいるという、この絶対に相手したくない感が最高だ。そりゃ多一郎さんもホモには走りたくなんよぉ。

 

 そんな状況下で、なにもわからずヘロイン中毒のままふらふらと抜け出して混沌としたニューヨークをさまようくだりの展開の速さがまたすごい。白人主義者と黒人とカラードが殺し合いをしているという凄惨さもさることながら、エンタメのセオリー的にここで涼が助けられて身を寄せるのだろうと思ったキャラが即死に、さらに助けてくれたキャラまでまたすぐに死ぬ、という、エンタメ読みであるほど予想を裏切られる大胆な展開。

 まかすこ自体がそういう部分があるのだが、この巻は「わかってる」読者の展開予測の斜め上をいくような嬉しい裏切りに満ちている。

 この巻の狂言回しとなる生島耕平の存在もそうだ。

 雄介の弟分のルポライターで、ルックスも悪くないし腕も立つのに、その生まれ持ったおっちょこちょいのせいでどこか軽んじられる二枚目半、という愛嬌のあるかれのキャラクターは、典型的な漫画の主人公的なものだ。ランド症候群と名付けられたインスマウス化が人間社会を覆いつつあるという、社会崩壊の兆しをそんな親しみやすい耕平の視点で描いているのもまた上手く、非人道的なインスマウス研究所のおぞましさを伝えている。

 そしてそんなかれだからこそ、漫画のように間一髪でなんとかなるだろうという期待を煽り、でも現実にはそんなことは起こらないというくだりは、まさにエンタメに慣れた読者にほどよく効く描写だ。近年、『GANTZ』や『進撃の巨人』『テラフォーマーズ』など、漫画の常識に当てはめれば長く生き残るであろうキャラがあっさりと死ぬサスペンス要素の強いヒット漫画がいくつも出てきているが、まかすこはそうした「読み慣れた人間ほど驚く」展開のさきがけ的な作品である。

 いやー、涼も耕平もどうなっちゃうんだろうか。続き読まなきゃ(使命感)


 薫が自キャラを次々とランクインさせていく好きなキャラランキング各部門の発表や、読者のはしゃいだファンレターを公開するなど、同人誌かファンロードかというようなテンションのあとがきも必見である。ものすごく痛いんだけど、こういうはしゃいだ薫、ぼくは好きだぜ……?

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