051 シルクロードのシ

83.06/白泉社

86.09/集英社


【評】 うな


●ドジ様と愉快な仲間たち


 漫画家の木原敏江や芳村梨絵と一緒に人団体で中国旅行してきたので、そのルポをみんなで一冊にまとめましたよ、という本。

 巻頭を飾り、あとがきを書き、と音頭を取っているのが木原敏江なので、どちらかというとドジ様の本である。自分が読んだのは文庫本の方なので長年知らなかったが、そもそも元本の方ではドジ様のいつもの美形キャラがドーンと表紙になっていて、はじっこにちょろっと栗本薫の名前が載っているだけの、ゲストのような扱いだった。文庫化にあたって共著扱いになったのは、おそらく文庫は売り場がマンガ界隈ではなくなるので、栗本薫の名前のほうが通りが良いと思ったのだろう。

 そんなわけで薫の文量は少なく、中島梓名義のエッセイが一本と栗本薫名義の短編小説が一本で、合わせて50p程度しかない。


 中島梓名義の『辺境へ』は、旅路を回想する普通のエッセイ。いつものことだがポエジー過剰というか、一人で悦に入ってる感が満載である。途中で『百億の昼 千億の夜』に思いを馳せていることからも察せられるが、感覚としては『滅びの風』のような無常感に満ちた文体である。つまりぼくはわりと好きである。

 だがせっかくのルポエッセイであるのに「旅のちょっとした発見」「こんなカルチャーギャップありました」的なものを書かずひたすら「こんなところまできてしまった」「都会はどこでこの確かさを捨ててしまったのか」みたいなことをのたまっているだけなのでルポエッセイとしての質が高いとは云えず、ポエムに付き合う気がない人には厳しいだろう。


 栗本薫名義の『上海』は、初めて上海を訪れた老学者が通訳の爽やか少年を気に入って「やだ可愛い……養子にしたい……でもまさかね、そんなこと云えない……」と長い間もじもじする話。

 設定的にはそういう話ではないのだが、勘違いホモ爺が勝手に惚れて勝手に思い込んで勝手にふられた気持ちになって勝手に落ち込む気持ち悪い話に見えてしまうのは、ぼくがもう汚れきった目でしか薫の文章を読めなくなってしまったからであろうか?

 まあホモ云々を抜きにすれば、感傷的な気持ちで上海を描いた文体は悪くないし、ぼく好みの悲哀を描いた作品ではある。もっとも、この小品のためにこの本を読めと云えるほどの出来では決してない。


 以上のように、中島梓・栗本薫目当てで読むにはあまり良い本とは呼べない。

 しかしドジ様のファンであるなら話は別だ。

 カラー、モノクロ問わず多数のイラストを描き下ろし、少女漫画ど真ん中のポエジーなイラストエッセイ、各地の市場の様子やトイレ事情などを面白おかしく描いたルポ漫画等を、実にドジ様らしく明るく可愛く描いている。この旅行の一団が仲睦まじく見えるのは、ひとえにドジ様の力によるところが大きい。

 少女漫画家はこうしたルポエッセイ漫画を描くことがよくあるが、二十四年組のなかでもドジ様が一番うまい、と自分は思う。萩尾望都だとエッセイでは自分を隠しすぎて面白みに欠けるし、竹宮恵子だと栗本薫同様、我が出すぎてその地やイベント自体の面白さに意識が行きづらい。やはりここはエンタメど真ん中のドジ様のバランス感覚が光る。


 ボランちゃんこと芳村梨絵のルポ漫画も普通に面白く読める。こちらは日記要素よりもルポ要素が強く、情報量が多く「へえ」と思うが、ただ漫画的な面白みがやや欠けるか。


 他の執筆陣は寡聞にして知らない人ばかりだ。

『剣をもつ女達――十三妹のことなど』はエッセイ。巻末の紹介によると著者の松沢睦実氏は童話作家らしい。内容は武侠小説の登場人物として中国で有名な十三妹というキャラと、それら題材にした二次創作がトンデモで大好き、という話。

 武侠小説のことはまったく知らないのでへえボタンを三回くらい押す感じだが、トンデモと紹介されている本のあらすじがそんなにトンデモに見えないのはぼくが現代に毒され過ぎたんですかね……。いらない寄り道ばっかりしている作品みたいだけど、ぼくそういうこと繰り返して130冊描いて全然完結させられなかった小説家知ってるからね……。


 高光望『琵琶怨』は仇討ちを描いた小説。どうやら同人小説家らしい。なるほど、そう云われてみると、しっかりしているわりにいまいち面白みに欠ける文章はいかにも同人小説家らしい(ド偏見)。


 森野裕子氏は同行した添乗員さん。二編エッセイが載っているが、なぜか片方は万平というペンネームを使っている。なぜ片方だけペンネームにしたのか。なぜペンネームにしたのに著者紹介では同一人物だとバラしているのか。謎は尽きない。

 エッセイの内容は普通に添乗員さんの体験談としか云いようがない。



 栗本薫に限定すると物足りないが、総じて見れば悪くはないルポエッセイ本であった。

 著者が多すぎるし謎めいた人がいるしで、いまいち散漫な印象がぬぐえず「ドジ様とボランちゃんだけで良かったのでは?」という感覚がないと云えば嘘になるが、ともに旅したみんなで本を作りたかったドジ様らしい気持ちのあらわれなのだろう。

 それにこの本、文庫だと定価三六〇円だしね。ちょっとでも楽しめれば文句つける必要ないよね。ていうか三十年前の文庫ってこんなに安かったんだ……。われわれはなんと遠くに来てしまったのだろう……(栗本薫的遠い目)

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