050 赤い飛行船

講談社 83/06


【評】うな


●あの頃あずさは若かった……


 懐かしの女性誌『若い女性』と『ノンノ』の連載エッセイを一冊にまとめたもの。の、ノンノ……梓がノンノに連載をもっていた時代があったなんて……あの非モテの象徴である梓がオシャンティの砦であるノンノに……。


 結論から云うと非モティーの申し子である梓にお洒落女子向きは無理でしたね、やっぱり。いわゆるスイーツ(笑)と梓ほど遠い存在はないッスよ。悪い意味で。

 恥ずかしい。とにかく恥ずかしいんですわ。およそあらゆる小説家の中で、栗本薫ほどファッションやメイクのセンスがない人をおれは知らないのだが、そんな彼女が得意げにファッションセンスについて語り、恋愛について語り、男性について語っているんだから、笑えるを通りこしてただひたすらに恥ずかしい。なんで読んでいるおれが赤面しなくちゃならんのだ?

 とにかくファッションの参考が少女漫画オンリーで、しかも少女漫画に出てくる男性キャラの格好を参考にしたりするんだから、悶死するしかない。150センチしかない梓が鷹塔摩利くんの格好をするとか、これはなんの羞恥プレイなんだろう?

 それで自分は小さいし髪も長いからそれでも男には見えないと、じゃあなんのつもりなのかというとベビーギャングとか、幼い頃の美空ひばりの男装のつもりだというから、おれは両手で顔を隠して「知らない知らない!」とぶりっ子したくなってしまった。ここまで見てらんない恥ずかしさ、なかなか普通のエッセイでは味わえまい。。


 でも、こんだけこっ恥ずかしくてなんの参考にもならないエッセイでありながら、しかしなんか、面白いのだなあ。やはり梓の文章は、ほかのものにはないライブ感がある。

 生で一発書き、恥ずかしいことも含めて、その瞬間に思ったことを、思ったままの速度書く。そういうスピード感と臨場感は、他の作家の追随をまったく許さない。おかげで梓が恥ずカワイイしキモカワイイ。

 ノンノの部分はタイトルが『梓の気まぐれクッキング』で、ご飯大好きでご飯の話ばかりなのはいつも通りなのだが、「肉が食べられない」と云った次のページで豚ばら肉を使ったレシピをお勧めするなど、余人の追随を本当にまったく許さないいい加減さがたまらない。


 それにしても、この頃の梓はよく本を読み、またたくさんの友人に囲まれていた。 エッセイ書くのは苦手だけど、読むのは大好きでをたくさん読んでいるからつい自分もと書いてしまっているというあとがきは面白せつない。

 なにが切ないって、これが08年に発行した『ガン病棟のピーターラビット』では「ろくなエッセイがない」と傲慢に語り、知り合いの人が「まともなのは中島梓と曽根綾子くらいだ」と云っていたと、信憑性のうすい言葉で自分を勝手に上にあげてしまうことだ。

やっぱり、梓はホケちゃったのかな、と素で思う。

 長く生きるというのは素晴らしいことで、それは人は生きれば生きるほど多くのものを愛するからだ。

 どんな人間だって、生きていればいろんなものを好きにならずにいられない。

 それは例えば大恋愛した異性に限らず、好きな食べ物や好きな散歩道、好きな作家やなんとなく可愛がっている近所の野良猫、愛用のペン、ずっと使っている枕、なんでもいい、そんな些細なものにも、人は好意を抱かずに生きてはいられない。生きるということは愛するということだ。もし本当になにも愛さずに生きているとしたらとんだ傑物だ。

 そしてどんな些細なものであれ、愛するということは心を豊かにするものなのだ。

 生まれた最初は自己愛しか持ってなかった存在が、次第に多くのものを愛するようになる、その営為を人生と呼ぶ。

 だが梓は、あれほど愛していたもののことをどんどんと忘れ、晩年は自己愛のみに目立っていた。ひどく悲しいことだ。愛しつづけろとは云わない。しかし愛したことを忘れるなんて、本当に悲しいことだ。


 そんなことを考え、本作のやみくもなテンションとは裏腹に、ひどくしんみりとしてしまった。一冊のエッセイとしてのクオリティは悪くないが、いまさら読まないほうがいい話だったのかもしれない。若さを書き留めてしまう悲しさとは、こういうものなのか……。

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