045 グイン・サーガ外伝3 幽霊船
83.02/ハヤカワ文庫
【評】うな
●行きずりの恋にホモ者同伴は厳禁
沿海州ヴァラキアの下町で王子と呼ばれ、我が物顔にふるまっていた少年イシュトヴァーン。ある日おいたが過ぎて、しばらくヴァラキアを出なくてはならなくなったかれは、カメロン提督とともに船の旅に出る。
その旅の中、タルーアンの女ヴァイキング、ニギディアと出会い、伝説の化け物クラーケンを倒すことになったのだが……
グイン・サーガ外伝の三作目。
今回は人気キャラ、イシュトヴァーンの若き日を描いた海賊のお話。このヤングイシュトヴァーンというべきストーリーは、外伝6『ヴァラキアの少年』、外伝9『マグノリアの海賊』、外伝17『宝島』とけっこう続いていく。
本作の物語としては、北欧ヴァイキングの世界観でクトゥルーしながら『白鯨』をやりファンタジーに仕上げるという、「80年代のミキサー大帝」の異名をほしいままにした栗本薫らしいミキシングぶりである。「ミキサー大帝が『キン肉マン』に出てきたのも80年代だし、そもそもミキサー大帝は混ぜるんじゃなくて分離する超人だろ」とか突っ込まないで欲しい。ぼくは勢いだけで書いているのだから……。
今作のファンタジー冒険譚としての評価は、正直、自分にはいささか難しい。
というのも、自分は80年代後半から90年代にかけてのゲーム・漫画的文化にどっぷり浸かって生きてきたわけで、今作の主なモチーフである「幽霊船」「船の墓場」「クラーケン」は、当時のRPGをやればものすごい高確率で出てくるもののため、今作を読む頃には見飽きてしまっていたのだ。
無論、それらのモチーフを扱った中でも今作は(少なくとも日本では)先駆者であるとは思うのだが、『七人の魔道師』や『イリスの石』が王道に感じられ、今作が在り来りに感じられたのは、肝心のクラーケンに対する奇想や独創性がいまひとつ欠けていたからではあるまいか。
今作に栗本薫が自分らしさとして足したオリジナリティは、女ヴァイキングのニギディアであるとは思う。恋人の復讐のために怪物を追う大女、というのはいかにもファンタジー的で良いキャラではある。
が、どうも設定ほどには魅力的に映らないままに物語が終わってしまった感がある。思うに、せっかくの女キャラでワンナイトラブ要員なのに、イシュトがカメロン提督といっちゃらいっちゃらしすぎていたからいけないのではあるまいか? 濃厚なホモ空間の前に女の出番などなかったのではあるまいか? 保護者もといホモ者同伴では女といい雰囲気になるのは不可能なのではあるまいか?
物語の作り的に、ニギディアとクラーケンの魅力が作品の魅力となるような話なので、そのどちらもがいま一歩な本作は、なにか物足りない外伝となってしまっている。
が、濃密なホモ空間であるだけに、カメロン提督とイシュトヴァーンの会話は良い。本編よりもヤンチャで傲慢なイシュトは少年と青年の端境期に宿る魅力にあふれているし、なによりも、応えるカメロンさんに余裕がある。イシュトヴァーンへの好意をはっきり告げつつ、若造のきまぐれや悪戯に動じない大人の魅力がある。これがなんで後年はいつもいっぱいいっぱいのホモ親父になってしまうのか……いや、未来の話は置いておくと決めたじゃないか……。
いやまあ、真面目に云うと、この頃はちゃんと「腐っている人が見ると完全に出来てるけど普通の人から見ると親子のように仲が良いだけに見える」という、絶妙な描写なんですけどね。
というわけで、本編キャラの過去編として読む分には十分に面白いが、単品のファンタジー作品として見るには微妙、という評価の難しい外伝なのでした。
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