039 魔界水滸伝 3

1982.08/カドカワノベルス

1986.10/角川文庫

2001.02/ハルキ・ホラー文庫

2015.07/小学館P+D BOOKS

<電子書籍> 有


【評】うなぎ∈(゚◎゚)∋


● まかすこ、絶好調


 葛城秌子が殺され、呆然とする雄介の前にあらわれたのは秌子の夫・多一郎であった。多一郎を不倶戴天の敵であると本能的に察した雄介は、葛城一族の誘いを断り、自らの軍団結成のために動きだす――


 ダメだ、めっちゃ面白いわ……。

 陰険キザメガネのライバル北斗多一郎の登場。天才軍師・加賀四郎の登場。雄介の信頼する三人の部下の登場。大学運動部の化け物ども登場。と、ひたすら個性の強いキャラがどんどん登場してくるだけで、どのキャラも本格的な活躍なんてまだ全然していないんだが、それでもたまらなく面白い。

 生きている妻の位牌を抱えて登場する詐欺師の草薙三四郎も、神経質な小男で爆発物の申し子・那須俊明も、なぜか金髪グラマーになりたがる変装の天才・左文字徹も、こいつらの活躍が見たいと思わせる良いキャラだ。

 そしてまとめて登場する運動部の連中も、基本似たような体育会系のキャラでありながら、一言、二言の台詞にキャラが垣間見えて、脇キャラ好きにはたまらない。思わず贔屓を探したくなってしまう。その中で紅一点としていち早く個性を発揮する女子剣道部主将の桂木円も、永井豪の描く勝ち気な美少女を思わせ、ぐっと華を添えている。


 だがやはりなんといっても加賀四郎が最高なのだ。登場するなりプロセスを飛ばして結果ばかりを話して混乱させてくる話法は、頭脳の高い人間特有の飛躍が感じられるし、一度はじまると止まらないその解説が、またなんとも聞き入ってしまう小気味の良い話しっぷりなのだ。様々な分野に話が飛ぶ博覧強記ぶりも、真顔のまま冗談か本気かわからないことをいう剽軽さも、メガネを外すとまつげが長くて目が綺麗という少女漫画みたいな設定を「ぼくの美しさに見惚れていたかね?」とのうのうといってのけることでぶち壊すところも、すべて最高だ。

 このキャラは栗本薫の友人である実在の編集者、秋山協一郎をモデルにして作られ、秋山氏当人は読むなり「あれぼくでしょ」と云ったという。どれだけ強烈な人物だったんだ秋山氏……。まあ、彼の奇行は担当していた作家の新井素子の著作などにも書かれているので、本当にああいう人なのだろう。ちなみに漫画家の高野文子の旦那でもある。ちなみに別にちがうのに「あれぼくがモデルだよね」としつこく云ったという栗本慎一郎も面白い。

 この最高の加賀先生の説明が長々と続くのだが、加賀先生が最高なのでうんざりすることはなくとても楽しい。いまだに天才・軍師系キャラで一番好きなキャラかもしれない。ぼくも加賀先生のようないかがわしい大人になりたかった……。


 こうした新キャラ祭りであまり派手なシーンがないことを考慮してか、冒頭に長い輪姦シーンを入れるなど、エンタメ作家としてのサービスも効いている。「あ、『凄ノ王伝説』で見たやつだ」感が満載であるが、それでも一巻から登場していた人物がこういう目にいうというのはなかなか鮮烈だ。明らかにやられる前にどうにかできたのにしっかりやられているサービス精神が素晴らしい。


 またシーンごとに視点を勇士である雄介と、凡庸なヘタレである涼とに切り替えているのも上手い。英雄として目的に邁進する雄介を通して見るワクワク感と、このとんでもない事態におびえながら自分のやり方を見つけようとする涼の視点での共感、読者の感情を二つともに満たしながら進めていくのが巧妙過ぎる。

 頼もしいキャラが次々と登場したところに突きつけられる、《古き者ども》の人知を超えた凶悪な惨劇の現場を見せて物語をひきしまらせ、そして急遽エジプトへ飛ぶという次巻を手に取らせる卑劣な引き。最高のエンターテイメント作品だ。

 敢えて云うなら北斗多一郎がまだ本領を発揮していないのが物足りなくはある。というか、この巻の葛城老人の話を見る限り、この時点では明らかに人間という設定でしたよね、多一郎さん……。でもそういう成り行き任せなところ、嫌いじゃないぜ?

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