035 グイン・サーガ外伝2 イリスの石

82.03/ハヤカワ文庫


【評】 うな(゚◎゚)


●三人の放浪者篇とかいう最高のやつ~


リンダとレムスをアルゴスに送り届けたのち、一人で放浪を続けていたグインは、赤い街道で一人の行き倒れを拾う。それは出奔したパロの王子マリウスであった。成り行きで道連れとなった2人は旅をつづけ、いつしか死の都ゾルーディアに迷いこみ、イリスの石をめぐる争いにまきこまれていくのだが……。

グインサーガの外伝の2であり、『三人の放浪者』篇が読者に初お目見えした巻でもある。

あらためて読み直すに、この三人の放浪者、すなわちグイン、マリウス、イシュトヴァーンのでこぼこパーティーは面白い。

生真面目でお硬いグインを間にはさんで、それぞれ別のベクトルで地に足の付かない女たらしの二人が、ことあるごとにくだらない喧嘩をしながら一緒に旅を続けているのが夫婦漫才じみていてとても良いのだ。


やっていることはそんなずっこけ三人組が古典的ファンタジーな場所に行って帰ってくるだけの、シンプルな冒険譚なのだが、不死身の〈死の娘〉タミアや、太りすぎて歩くことも出来ず自らの肉の中に常にうずもれている醜悪なる〈死の王〉アル=ロートなど「『ダークソウル』かな?」という感じの不気味さが良い。いやまあ『ダークソウル』がグインとか海外古典ファンタジーの影響を受けた世界観なんだろうけど……。

物語としてはただの冒険譚に留まっているため、ややシンプルに過ぎて話としての広がりや横のつながりに欠けるきらいはある。が、国産ファンタジー勃興期であることを考えると、死の都の情景だけで十分に満足できるか。

なにより、グイン・サーガの物語の中心となるのは中原と呼ばれる中世ヨーロッパ的な文明圏だが、一歩そこから踏み外れると、人知を超えた怪異の都市や怪物が跋扈しているのだ、ということを知らしめてくれるのが良い。中原での陰謀があり、辺境での冒険がある。その両方がそろっているからこそ、グイン・サーガという世界は途方もなく広く感じられ、魅力的であったのだ。


お話の展開としては、イシュトヴァーンがカッコイイです。

ちょっとワルで、ちょっとシニカルで、女にもてて、ケンカは強くて、ギャンブラーで、根はいい奴で、野心が強くて、でもまだ何者でもなくて。もう男の憧れるすべてが詰まっている最高のキャラじゃないですか、この頃のイシュトヴァーンったら。なによりホモじゃないし……。

そんなイシュトがこの作品ではもうすごい良いタイミングで出てきて身悶えするようなベタな活躍してくれるんですよね。「過去十年で最高と云われた第一巻を上回る登場」とボジョレーヌーボー的なキャッチコピーをつけたくなるくらい、この作品のイシュトの登場の仕方と立ち回りは最高なんスよ。

本当にもう、この頃のイシュトは完璧だったわ……(遠い目)


それにしてもまた『七人の魔道師』に続いて、この外伝も発表タイミングが憎いやね。あちらでは何十巻も先の展開をチラ見せしてぐっと惹きつけたが、この『イリスの石』では本編のちょっと先っていうのがもう、うまい。

本編ではグインとイシュトヴァーンは双生児を連れてパロへの困難な帰途へついている真っ最中。

一方でマリウスは兄ナリスにミアイルの暗殺を命じられ吟遊詩人として潜り込んでいるが、健気なミアイルに心惹かれている時期。

それがなんで冒頭ではグインとイシュトが別れているのか、マリウスはなぜ放浪しているのか、本編の数巻後の事情をチラチラとかたっちゃうものだからもう「続き読まなきゃ!(使命感)」ってなってしまうのは当然である。本当にこの展開の仕方というのは上手いし、真似しようと思ってもなかなか出来るものではないよ。


あとがきでは友人である少女漫画家の木原敏江が、楽しそうにグインのイラストを書いている。

このわいわいとした雰囲気、懐かしいね。

グインって、この当時は日本SF・ファンタジー界の一大イベントだったんだよなあ。

しんみり。

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