031 ネフェルティティの微笑

81.12/中央公論社

83.08/中公文庫

86.03/角川文庫


【評】うな


● エジプシャンミステリー


 失恋の痛手から、なんとなくエジプトに旅立った秋生は、現地の博物館で那智という女性と出会う。エジプト史に残る美女ネフェルティティ女王にそっくりの美貌を持つ彼女に、秋生は魅かれていく。しかし、突如として停電が起こり、気がつくと彼女は失踪していた……

 

 オリエンタルミステリー。とでも云えばいいんですかね。栗本薫はファム・ファタール(運命の女。男を破滅させる悪女)が好きで、定期的にこういう話を書くんだよね。ミステリアスな女にひかれ、追いかけ、そして置いていかれた男たちの物語。はっきり云って、どれも印象薄いです。後味がいつもさわやかで、その分だけ「してやられた」みたいな感じがないし、実際、たいしてやられてないんだよね……。もっと悪女にはめったんめったんにされたいっつーの!

 でもまあ、冷静に読み直してみると……けっこういいじゃないか。

 随所に見られるエジプシャンな雰囲気とエジプト豆知識の数々。自由を求める鳥と、しばりつけようとする男。残酷なエゴのぶつかり合いは、いつだって鳥の勝利に終わる。すべてを傷つけ踏みにじり、ただ羽ばたくために美しき鳥は行く――そして時がすべてを洗い流し、砂漠のような静寂と清廉を取り戻す。

 まさに砂漠の国の物語。でもこの砂漠、エジプトじゃなくてアラビアのロレンスの砂漠じゃねえか?

 手癖感爆発のラストが素晴らしいぜ!

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