030 にんげん動物園

角川書店 81/11

角川文庫 84/05


【評】 うな



●あの頃、梓はおっさんキラーだった……


 夕刊フジで連載されていた新聞エッセイ。

 これはイラストの山藤章二が固定で作家の方が一定期間で入れ替わっていく、というむしろ山藤章二がメインとなる定番コーナーの中島梓編である。動物をテーマに毎回小話を繰り広げている。というかだらだらと話した後に強引に動物にからめている話もちょいちょいある。

 この小話、散漫でわりとどうでもいいことだらけなのだが、しかし小娘感満載の梓の語りが妙に読ませるし、語り口は小娘丸出しなのに、池波正太郎だの柴田錬三郎だの内田百閒だのの、おっさん好きする作家作品について語る辺り、おっさんを蕩かすテクを感じる。その返す刀で一条ゆかりのトンデモ少女漫画『デザイナー』について語って笑いを取ったり『こまわり君』のお気に入りギャグについて語ったりと、このボーダーレスさがまさに中島梓の特性そのものだ。

 が、どうにも物足りない。一回毎のページ数が少ないから、妄想を暴走させたりしないままに次の回に行ってしまうのがその原因か。新聞連載ということもあり自制していた部分もあるのかもしれない。ホモネタとか。梓からホモを取ったらなにも残らないんだ……。


 あ、でも映画『復活の日』の草刈正雄とアメリカ軍人が可愛いって話はちゃんとしていた。

 いや、この前初めて観たんですけどね、唐突にホモいんですよこの二人。危険な場所にアメリカ軍人が一人で行くことになるんですけど、草刈正雄が自分も連れて行けというの。でもお前みたいなチビはダメって断ると、草刈正雄が殴りかかるの。でも米国さんガタイがいいから簡単にあしらわれて、でも正雄が何度殴られてもしがみついて粘るの。お前はドラえもん最終回(仮)ののび太かよって感じで。で、まあ最終的に二人で行くことになるんですけどね、その後、二人には涙のお別れもあって、本当にもうなんで唐突にホモいのかって気分になりましたね。その後、ヒロインと再会しても「いやでもお前ホモじゃん」くらいの気持ちになりますからね。


 すみません、この本と関係ないホモ話をしました。ともあれ、今作ではやたらめったら「私は原稿を上げるのが早い」「落とさない」と自慢しているのが微笑ましい。そしてそんな梓をイラストでからかうようにしてあしらっている山藤さんもまた微笑ましい。梓の似顔絵がまた、ビーバーみたいなげっ歯類顔で「愛嬌のある可愛いブス」という感じで梓っぽく仕上がっているんだよね。山藤章二はやはり似顔絵うまい。

 気鋭の若手女史が、業界の古狸と戯れている姿を楽しむ、そんなエッセイ本でした。いまとなっては「この頃の梓、業界の寵児だったんだなあ、伸びると思われてたんだろなあ」という感じが切なくなってしまう。


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