023 行き止りの挽歌

81.08/角川書店

83.07/角川文庫


【評】うな∈(゚◎゚)∋


● 叙情ハードボイルドの傑作


一匹狼の暴力刑事・梶は、今日も蛮勇をふるい、暴走族を殴ったりオカマバーに踏み込んだり女をレイプしたりしながら一直線にコロシの真相をさぐっていたのだが、事件は意外な展開を見せ、上層部とヤクザの癒着が捜査のストップをかける。しかし、梶は止まることもできず、やがて行き止まりにたどり着く……


 ハードボイルドです。年代別に読んでなかったから気づかなかったけど、これが最初のハードボイルドなのね。

 いやあ、これはね、良かったよ。大藪春彦の話を叙情的に仕上げるとこうもなるんだなあ、と。

 暴力刑事、美少女暴走族、警察と政治家の癒着、などなど、どこかで見たような設定の数々は、和製ハードボイルドの典型としかいいようがないが、野太い文章とスピーディーな展開が、そんな疑問を吹き飛ばす。

 なにより、凶暴でありながらどこか悲しい主人公・梶の生き様は、都会に迷いこんだ野生の獣を見るようで切なく美しい。その唯一の親友である温厚な刑事、西村との関係もいい。

 ちなみにこの西村さん、野々村と名前を変えて『翼あるもの』『朝日のあたる家』『魔界水滸伝』などの他の栗本薫作品にも出まくっている人物。作者自身がそう書いていたからまちがいない。ちなみに野々村という名前自体は、栗本薫の大好きなドラマ『悪魔のようなあいつ』の藤竜也さんの役名からいただきしたものです。この作品に出てくる美少女暴走族も沢野未来も、たぶんこのドラマからちょうだいしたキャラだと思われます。『悪魔のようなあいつ』から世界で一番影響を受け、パクリまくった人物は間違いなく栗本薫。

 さておきこの西村(野々村)というキャラクター、いつも主要人物の近くにいて、かれらをだれよりもまぶしく思いながら、決して物語の中心にはやって来ない。傍観者でしかいられない人間の切なさが、この人物にはある。ある意味、腐女子魂の塊のようなキャラだ。

 その西村(野々村)さんが一番いい仕事をしたのが今作。そのいい仕事をしたラストシーンが、この作品を美しく悲しいハードボイルドとして仕上げているのだ。

 迷路のように入り組んだ世の中で、まっすぐに進むことしか出来ない野生の獣はいずれ行き止まりに突き当たってしまう。その悲しい獣への救済として、西村は一発の弾丸を選ぶ。

 敵をつくらず、だれも傷つけずに生きてきた男と、暴力刑事として恐れられ、だれかれかまわずかみついてきた男。最後の最後で、優しい刑事は救済のために弾丸を放ち、暴力刑事は死の間際でも友達を殺そうとはしなかった。この対比の切ない美しさが、余韻となって読者の心に残る。ラストの西村の独白は、一言一言が胸に突き刺さる。

 男性的な骨太さに、女性的な情緒を絡ませた、栗本薫ならではのハードボイルド傑作。まあ、ストーリー自体は大薮春彦とかで何回も見た気がするんだが、そこに目をつぶって是非とも読んでいただきたい。

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