021 女狐
81.07/講談社
83.11/講談社文庫
【評】うなぎ
●江戸女の情のこわさを描いた秀作短編集
時代小説。短編集。
「女狐」「お滝殺し」「あぶな絵の女」「赤猫の女」「蝮の恋」「商腹勘兵衛」「微笑む女」「心中面影橋」収録
ちょっと高く評価しすぎな気はするが、栗本先生の時代小説でどれか一冊ならこれになると思うし、のちに多用される「薫の心中ロマン」のたいていのパターンはこの一冊でけっこう網羅できると思うので、おまけで「うなぎ」ということで。
『女狐』
「お前、私と相対死しておくれでないか」
ある大店の奉公人であった伝次は、内儀のお艶に突然そう云われ、心中に巻き込まれる。
その罪から非人として溜に暮らすことを余儀なくされた二人であったが、伝次はお艶を手に入れたと思うと幸福であった。しかし、どんな愛欲のかぎりを尽くしてもお艶は伝次にこたえることはなく……
虚無を感じるお艶の絶望が全編を支配し、愛欲の狂気に陥っていく伝次をうまく描いている。
凄惨なラストシーンには美しさをも感じる。
☆心中CASE1 なかなかこたえてくれぬ相手に思いあまっちゃったよ心中
『お滝殺し』
年増をだまして貢がせてばかりいる小悪党・三次は、今回ももまた大年増のお滝をうまいことひっかけたのだが、お滝はなぜか寝たきりの息子のことに関してだけ三次を拒絶し、あわせようともしない。豪を煮やした三次が忍び込んだお滝の家で見たものは……
鬼子母神の話である。子を愛する母親の気持ちと、男を愛する女の気持ち、そのどちらもが深すぎるゆえの悲劇である。
やっぱり心中して終わるラストには「またかよ!」とツッコミを入れた。
☆心中CASE2 おれがいま楽にしてやるよ心中
『あぶな絵の女』
見る者に異様な興奮を与える名もなき画家のあぶな絵。その絵のモデルと偶然に出会った主人公は、女をつけまわすのだが……
不能であるがゆえに魔性の腕をもつ画家の話。
最後でミステリー的なオチがついているのはいいことなのか悪いことなのか。
☆心中CASE3 実は殺されてましたよ心中
『赤猫の女』
無知な人のために説明すると、赤猫ってのは放火魔です。もちろんぼくもすっかり忘れていました。
目明しの源助は、ある夜、以前より江戸を騒がせていた放火魔をついに現行犯でつかまえる。
しかし、犯人は年端もいかぬ少女であった。
八百屋お七をベースとした、というかわりと八百屋お七そのまんまじゃねえの? みたいなお話で、相手を目明しにすることによってよりドラマ性をあげてはいます。
本編で唯一のロリ少女のお話なので、ロリ好きは萌えてください。その後に燃やされますけど。
『蝮の恋』
蝮のあだ名で呼ばれる目明し・弥吉は、二目と見られぬ醜貌の持ち主。
性根も悪く、弱いものいじめばかりをしていたため、人々に嫌われていた弥吉は、ある日、女に「悪人面のぶさいく」と罵られる。それが蝮の恋のはじまりであった――
面相で嫌われるという事実にたえがたいため、人々に嫌われるような行動をとっている弥吉萌え。
いや、萌えってのともまたちがいますけど。いやまあ、普通に悲しい話です。自分が好かれているなどと最後まで信じない弥吉と、その疑いを裏切らない現実が。
『商腹勘兵衛』
「どうだ。腹を切らんか」
藩主の自尊心を満たすためだけに切腹を迫られる老人、勘兵衛は、忠義違いだとその誘いをはねのけつづける。しかし、ある日、ほんの勘違いから、十六の小娘、奈美を娶ることになり、奈美の将来を約束することを条件に追腹を承諾するのだが……
「わしは、何で腹を切るのでしょうな。一体何の商いで?」
追腹、などというもの自体がそうではあるが、あまりにも無意味な勘兵衛の切腹がせつない。
珍しくストーカーではない普通の男の悲哀を描いているのでおっさんにも受けそうな佳作。
☆心中CASE4 O・ヘンリー(夫は妻のために、妻は夫のために)心中
『微笑む女』
主計はいつもぼんやりしてなにを考えているかわからぬ娘を無理に嫁に出したのだが、婿は藩政改革を企むテロリストであった。しかし娘はそれを知っても動じることはなく――
わからん。この娘がなにを考えているのかさっぱりわからん。
この「鈍いんだけど内心ではなに考えているかわからず空恐ろしい娘」というテーマは、なにか栗本先生にも思うところがあるのか、デビュー前にも一本書き、その後リメイクして別の作品として出版もされているのだが、本当になにを考えているのかまったくわからん。いや、そこが面白いんですけどね。でもなんなんだろう、このテーマ。
『心中面影橋』
ある橋のたもとで夜鷹をしていた女が、ある夜、声をかけた男に名前を告げると、「あんたを探していた」と云われるのだが……
もっとも栗本薫らしい作品かな。
男の真意をはかりかねるサスペンス調の前半は興味をひき、破滅を感じさせる後半は悲劇的なホラーでもある。
いろいろあったけど、とりあえず心中しました、的な感じが清清しく栗本薫。けっこう好きです。
☆心中CASE5 遊びの相手にマジになられちゃって「一緒に死のう」心中
……いや、やっぱちょっと評価高くしすぎたかな? 本当にとりあえず心中してる話ばかりだしね……。
「そろそろ紙幅も尽きるし、収集つかなくなってきたし、いっちょ心中しとく?」「ウッス!」というペヤング的なノリで心中しすぎだと思うの、薫は。
そんな薫の心中パターンを網羅して楽しめるのでお得感はある。これ読めば他の時代物読まんでもええんってことやんな!
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