019 エーリアン殺人事件

81.06/角川書店

82.05/角川文庫

98.10/ハルキ文庫


【評】うな∈(゚◎゚)∋


● SF作家・栗本薫の代表作(キッパリ)

 長編SFコメディ。

 宇宙船シーラカンス号にエーリアンがまぎれこみ、あろうことか殺されてしまった。果たしてエーリアンは何者に、なぜ殺されてしまったのか……


 という、あらすじを話すのもバカらしい作品で、本当にもうバカらしい。なにがバカらしいって、このエーリアンの姿が巨大なチンコそのものだという、その頭の悪さ。それで長編一本書くかね、普通。栗本薫がやたら巨根にこだわるということは後年になるにつれて明らかになっていったが、デビュー間もないこの時期にすでにこのうえもない形でカミングアウトされていたわけです、ハイ。

 いやー、しかし……ホントに、まったくもう……くっっっっっだらない。ここまでくっだらない作品が、角川書店というメジャーレーベルで三十年も前に堂々と出ていたというのは、これはもう偉業と云ってよいのではなかろうか。

 だって、登場人物なんて、基本的に『スター・ウォーズ』のパロディキャラか(主人公の名前なんてルーク・ジョニーウォーカーですよ)新撰組ですよ。そんでもってやっていることと云えばくっだらないダジャレのかけ合いかゆるいホモトークで、読んでいる間、常に失笑が止まらないですよ、ホント。

 もう大好き。

 ほんとこれは愛さずにはいられない。栗本薫の可愛さというものが、この一冊に凝縮されているといっていい。これをして小説未満だと斬って捨てるのはたやすい。また当時ならともかく現在ではありふれているアニパロ作品だと云われても否定はできない。

 ただ無邪気に、あまりにもあけすけに、ここには彼女の好きなものがつまっている。それはもう、テキトーに深い考えもなくつまっている。だからこそ、ここには彼女のライブ感あふれる生の愛がある。

 アル中のルークと土方歳三がなぜか同性愛に目覚めるというこのあふれる疾走感と頭の悪さ。だれがこんなものを責めることができようか。こんなにも読んでいるだけで恥ずかしくニヤニヤしてしまう小説というのも滅多にない。「史上最大のご都合主義なエピローグ」と題されたオチにいたるまで、すべてにおいて完璧にやりきっている。

 特に好きなのはルークと土方さんの雑俳合戦のくだり。SFやミステリーを題材にしたくだらない俳句を言い合うだけなんだが、当時のSF・ミステリーのトリビアもを混ぜつつくりひろげられるこのテンポが素晴らしい。初読時は「ええっ? 小説ってこんなことまでしていいの?」という強い衝撃をうけたものだった。

 ネタにされている作品があまりにも当時の旬のものばかりで、いま読んで面白いとはまったく思わないのだが、しかし自分が読んだのも一九九四年か五年のこと。意味のわからないネタも多数あったのだが、この勢いにすっかりやられてしまったのだから、機会があればいまからでも読んでみて欲しい。そして「くっだらねえ」と失笑して欲しい。

 正直、栗本薫にはギャグやコメディの才能はまったくないと思うし、他のコメディ小説やミュージカルのギャグなども、恥ずかしくなるようなものばかりだ。しかしこの作品にかぎっては、この長さとスピード感とミーハーさで、そんな恥ずかしさを突き抜けた先にある。

 この作品が好きじゃない人は、栗本薫の性格自体が好きじゃないんだと思う。自分の中では栗本薫の代表作の一つとして数えたい作品。

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