017 魔剣1 玄武ノ巻
1981.04/CBS・ソニー出版
1985.04/角川文庫
1999.10/徳間文庫
<電子書籍> 無
【評】 うな(゚◎゚)
● 記念すべき初の中絶作品
時は江戸中期。美貌の不良少年直次郎と、無頼の美剣士新八郎。とある祈祷所で出会った二人は、髑髏の魔剣士と魔性の美少年をめぐる巨大な陰謀に巻き込まれていく――
栗本薫初の長編時代小説にして初の未完中絶作品。それが今作の最大のアイデンティティである。全四巻構想のうち、二巻を出したところで中絶したシリーズなのだ。
今作は文庫版で読まなければならない。あとがきが面白すぎるからだ。
「毎度おなじみあとがき交換の栗本薫です」というおちゃらけから入るこの文庫版あとがきは、一巻目であるというのにいきり本作が未完であること、どういうオチにするつもりだったのかなんて覚えていないこと、そもそもオチを考えていたかどうかも定かではないことなどをぺらぺらとしゃべくり倒し「もう未完でいいでしょ、ね、ね」とお願いしてくるのだ。
普通だったら「ちょっと待てふざけんなよこのクソ野郎」という気分にもなりそうなものだが、なにぶん自分は面白さ最優先の人間のため、あまりにも軽薄に、グインとまかすこ書いているから他に書き下ろしかく気分になんてならないとか、親本は出版社ともめたから発売時にろくに宣伝しなかったとか、云っちゃいけないようなことまでべらべらとしゃべり、途中でしょうもないクイズを挟んだ挙句「と、そのとき!」と謎の引きで適当に終わらせて誤魔化してくるこのあとがきの面白さには耐え難く、「ちょっ、ジーマー?ジーマーでカンミー?ちょ、カンベンしてよクリモッちゃん~。今回だけよ~?そいじゃおつかれチャーン」とこちらも軽薄になってチャンカオの肩でも一揉みしてからギロッポンの夜にフケてしまいたくなる衝動にかられてしまうのだ。
そんなわけで、徳間文庫版は読んだことがないのでどうなっているのかわからないが、今作は是非、文庫版を読んでいただきたい。親本の南伸坊のイラストも魅力的ではあるんだけどね。
と、作品外のことを先に書いてしまったが、本作は内容そのものも栗本薫丸出しで面白い。
なにを云うにも次から次へと事件が起こり、新たな登場人物があらわれ、飽きさせないのだ。美貌の不良少年とひねくれ者の美剣士が手違いで対決するところからはじまり、妖かしの力をもつ魔性の美少年、顔が髑髏そのものの魔剣士、魔剣士を狙う謎のくの一軍団、人間コンピューターの天才少年、唖の美少女、人の顔をつけられた犬――ひとつの事件が解決しないうちに新たなガジェットが次から次へと投入させられ、話がどんどん膨らんでいくさまは、まさに栗本薫の大長編のパターンだ゜。完全に収拾を考えていないまかすこパターンである。
文体もまた良い。サイレント映画の活動弁士を思わせるチャキチャキとしたリズム感が心地よく、テンポの速い展開と実によく合っている。さらに時代劇であるのにあえて外来語を多用し、それに適当な当て字をつけるふざけた外連味がまた面白い。「素破途(すぱーと)」「四異寸(しーいずん)」「根謬多(こんぴゅうたあ)」「愚呂手助(ぐろてすく)」とやりたい放題で、このお遊びが作品全体の荒唐無稽さをいや増してくれる。
ストーリー展開も、場面転換のたびに「と、そのとき!」で引きまくるわ、なにか大事なことを話そうとすると邪魔が入って聞けなくなるよの繰り返しで、あざとすぎて完全にギャグになっている。髑髏の剣士にやられた師匠が「貴様の正体がわかったぞ」と云ったかと思うとべらべらとしゃべりながら結局正体おしえてくれずに死んだところなどは本当に笑ってしまった。あとがきも「と、そのとき!」で終わらせているし、作者的にもこの作品の引っ張り方は半分ギャグのつもりなのだろう。
売れなかったのにファンが多くて続きをせっつかれていたというのもわかる、やりたい放題の無責任な面白さに満ちた作品となっている。なによりあとがきが抜群に面白い。あとがきだけでも読むべきな作品だ。
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