012 あずさの男性構造学

 徳間書店 80/10


【評】うな


 ●あずさ、大いにはしゃぐ


 中島梓の初エッセイ集。

 あちこちに書き散らしたまとまりのない文を集めたもの。

 竹宮恵子・糸井重里・五木寛之との対談に、好きな男性作家・タレントを語るコーナーに、好き勝手に男について語る男性構造学と、実に実に書き散らされている。 ゆえに、あとがきにある通り、かるーく、そこそこ楽しんで読むもの。

 そういう意味では、ちゃんとコンセプト通りともいえるエッセイ集。



 悪い意味で晩年にまで通じる中島梓のすごいところは、文章のもつおしゃべり感覚。

 どれだけ饒舌文体を気取ったところで、普通はだれだっておしゃべりと文章の間にはいろいろな隔たりが生まれてしまう。文章を書くということは、どれだけ勢いをつけても、おしゃべりほどには無責任に言い放つことはできない。無責任に言い放とうと意識した文章になってしまう。

 ところが梓はちがう。

 しゃべり言葉とまったく等速で、まったく同じだけ勢い任せの、まったく同じだけ無内容な文章が書けてしまう。これは稀有な才能だ。しかしそれゆえに、おしゃべりがつまらなくなると、そのまま文章もつまらなくなってしまうわけなんですが。


 絶妙に二人ともあさっての方向に向かって話している竹宮恵子との対談。

 勝手になれなれしく都会派ぶってる糸井重里との対談。

 梓がいちいちやりこめられてるのが楽しい五木寛之との対談。

 要するに「わたしは痩せてる悪い男が好き」ということしかいってない男性構造学。

 それぞれ愉快だが、圧巻は好きなタレントたちについて語る新男性論。

 一人につき3P程度の小コラムなのだが、まあそのおしゃべりの無内容さとミーハー具合ときたら惚れ惚れとしてしまう。バカをさらけ出すのは立派な知性のあり方だということをしみじみと感じさせてくれる。

 年上の大物たちに言いたい放題。それでいてかれらに対する確かな愛を感じる。実にミーハー。

 そんでもってまた、大物たちに可愛がられてるんだわ、梓。

 阿久悠だ久世光彦だ野坂だ小松だ半村良だといちいち大物。彼らに実に可愛がられているし、可愛がられるのがうまいんだ、この時期の梓は。

 実際、この時期の梓は(外見は知らぬが)かわいい。ぷりちーと云ってもいい。

 最近、年代を遡るように梓のエッセイを読んでいるわけだが、文学の輪郭は例外として、見事に若ければ若いほど梓の言動はかわいい。 これはもう、まったく外見によらない、文章のみによる印象なので、如何ともし難い。

 残酷な現実だ。

 ともあれ、はしゃぐ小娘が可愛い、新人らしいエッセイ集である。


 それにしてもこの梓、藤竜也に萌え萌えである。

 梓は藤竜也やたら渋い・ダンディ・理想だといっているが、そこに書かれている竜也さんの言動ときたらどう考えてもド変態にしか見えないからたまらない。おれ、いままで見てきたすべての人間の中で、藤竜也ほど<変態紳士>という尊称が似合う人間はいないと思うよ。藤さんのただずまいはガチで変態でマジで紳士。みんなも『悪魔のようなあいつ』を見るべきなのだ(結論)。

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