011 グイン・サーガ5 辺境の王者

1980.10/ハヤカワ文庫

<電子書籍> 有

【評】 うなぎ


● わりと普通に第一部完


 巨人族ラゴンに因われたグインは、ラゴンを説得し味方につけるため勇者ドードーとの決戦に挑む。一方、モンゴール軍に追われるセム連合はその半数以上をうしない、窮地に陥っていた――第一部「辺境編」完結。


 賢者ドードーと勇者カーの存在ははじまった瞬間に存在が抹消されていました。

 ていうかさあ、初出と設定が変わるのはいいとして、なんで重版のときに直さないんだろうね、こういう小さな失敗。薫のそういうところがさっぱりわからないわ。ミス指摘すると「夏目漱石の誤字が私は好きだった」とか云い出すし……。


 さておき、第一部完結巻となる今巻。

 ストーリー的には特に意外なところもなく普通にラゴンを味方につけて普通にピンチになっているセム軍のところに駆けつけて普通にモンゴール軍を追っ払うだけである。王道と云えば王道の展開で、普通に盛り上がり普通に落着する、第一部の完結巻としては無難なところだろう。後の展開に失望する人の中にも「五巻までは傑作」派が多いのも頷ける仕上がりである。


 が、二巻・三巻でわっと広がった物語世界や設定のことを考えると、普通すぎて肩透かしを喰らう感じもある。イドの谷を渡ったりイドを敵軍にけしかけたりと今作独特の世界観を使った戦術もなりをひそめ、普通に小勢が多勢に追い立てられ援軍を迎えて逆転するだけなので、この作品ならではの興奮という感じもない。

 なにより、ラゴン族の説得が道端で拾ったよくわからない棒を掲げたら神の遣いということになってすべてうまくいったというのは、はじめて読んだ中学生の時ですら「は?」感があり、率直に云ってもやもやした。せめて勇者ドードーとの決闘を制したあとでその展開になったのならともかく、決闘の最中のややピンチの状態で棒を掲げてすべて解決してしまったので、グインの詐欺師感が凄まじい。しかも結局次の巻でドードーともう一度決闘して勝ってるしさ……ここで勝たせるわけにはいかなかったの……?

 決戦でも多数の戦死者は出たもののほとんどが名前あるだけのモブキャラで主要キャラは死なないから無常感とかも特にないし、強敵を倒した爽快感も薄い。

 全体的に、記憶にあるよりも薄味の巻となっており、第一部の完結としては合格点はあるものの大満足とはいきかねる巻であった。


 どちらかというと本編よりもあとがきのほうが見ものである。

 これまでお堅い口調で本編の用語解説などをしていたのが、読者のお便りへのお返事ということで、急に崩れた口調になり、矛盾点へのツッコミなどに対して「単位とかちゃんと考えたの四巻のあとがきだったから許して」とぶっちゃけるなど、愛すべきぼくらの薫くんが降臨しているのだ。まあツッコミに対しておどけて許してもらおうというずるい気持ちもあって砕けたのかもしれないが、それでもこういうあとがきが大好きな自分としては許さざるを得ない。(でもやっぱり重版のときに直してもいいと思う)


 こうして改めて第一部を読み直してみると、話を広げる中盤ではかなり盛り上げてくれるが、風呂敷をたたむ段階になると伏線の放置やご都合主義が目立ち不完全燃焼感が残るという、後の暗雲を感じとることのできる構成であった。

 文章も十代のころは重厚に思えたがいま読むとかなりライトな書き方であり、本格ヒロイック・ファンタジーとして読むには食い足りない気分もある。なにより、当時はこの後の展開や伏線回収に対する期待が物語を実像の何倍も輝かせていただけに、そのほとんどが放置されることがわかっている現在の視点で目の前にあるものだけを見ると、名作と呼べるか怪しいものがある。


 だが、それでも国産ファンタジーの黎明期にいきなりこのクオリティというのは瞠目すべきことであり、本格的に見えてライトな読み味も、若い読者を誘うには最適なものだ。スッキリしきらないからこそ次の巻に手が伸びてしまうというのも確かであり、この第一部があってこそその後30年間もずるずると引きずられる読者が大量にいたことを考えると、やはり傑作であるのは確かだろう。

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