悲しい別れ

「……私のせい……私のせいで、雅史お兄ちゃんは…………」

  莉佳は頬に涙を伝わせながら、自分を責める言葉を繰り返していた。

 藍はと言えば、ディスプレイから顔を背け、気が抜けたようにして天井を仰ぐばかりだ。

 絶望が塗り潰そうとする中、

「〈犯人捜し〉は終わった」

 犯人として定めた雅史への断罪を終えた覆面の男の、あの奇矯な甲高い声が届いて来た。「だが、橙屋莉佳、お前も同罪だ」

「え……?」

 続けられたその言葉に、啜り泣いていた莉佳が、はたと顔を上げる。

「お前がその事実をすぐに打ち明けていたとしたら、罰を受けるのは赤井一人で済んだ。なのにお前は――」

「もう嫌!」

 突然藍が、覆面の男の言葉を遮り、叫ぶような声を上げた。恐慌をきたしたように、

「どうせ莉佳ちゃんの後は、同罪だって私も殺す気でいるんでしょう? だったら――」

「藍ちゃん……?」

 これまで見せたことのないような藍のとり乱しように、莉佳は戸惑いながら、

「まさか……」

「さようなら、莉佳ちゃん」

 藍は、悲しげに、そうぽつりと短く別れを告げると、ノートPCを畳んで、莉佳との通信を遮断した。


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