第72話 銀色

この第三体育館には食糧が無い。

休憩といっても水を飲むことぐらいしかやることが無い。

再び俺は牧師からの質問に答えた。


牧師「それで機長は体育館の屋上でA子と反対方向へ進んだのですね。」


俺「そう。A子は第三体育館へ。俺は第一体育館へ。」


牧師「ハンドサインではA子はどうでしたか?」


俺「素直。 素直にそれに応じたように見えた。」


牧師「その後、A子はどこへ?」


俺「方向を90度変えて後部へ向かった。」


牧師「なるほど。その時点でA子は後部ハッチに入ろうとしていたのですね。」


俺「そうなる。紫さんがA子に協力していれば後部ハッチは開けられる。」


牧師「その時の機長はどう思いましたか?」


俺「単純にA子は方向を間違えたと思ったよ。」


牧師「分かりました。今考えれば・・という後悔は?」


俺「分からない。その時はそうとしか思えなかったし疲れていた。」


牧師「そしてA子は後部ハッチから第一体育館に侵入したことになりますね。」


俺「そう。俺は気づかずに側面エアロックの周辺ばかり見ていた。」


牧師「機体外部を遠回りしてくるかもしれないA子を警戒していた?」


俺「かなり警戒して何度も周囲を確認していた。」


牧師「それでA子の襲撃は無いと判断してようやくエアロックに入ったんですね?」


俺「ああ、しかしその間にA子は第一の室内を移動していた。」


牧師「室内を移動したA子は中からワイヤーでエアロックを封鎖・・。」


俺「今は、やられたという感じが強い。」


牧師「ひとつ追加で質問ですが・・」


俺「何?」


牧師「A子の封鎖より先に機長が室内に入った場合はどうなっていたでしょうか?」


俺「その場合は俺とA子は室内で鉢合わせることになる。」


牧師「格闘になりますか?」


俺「なっていただろうし、・・・」


まともな食事を何日も食べていないのでクラクラする。

ここ数日は水だけだ。

ハルカワの入っている銀色の冷凍睡眠装置が先ほどから、やけに目についた。

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