第73話 メール

グリーンの服を着た俺は少しだけ眠った。

これはブカブカの手術着のような簡易な服だ。

起きると連絡が来ていた。

宇宙服のヘルメット内にはディスプレーがあり取り外しできる。

手のひらほどのディスプレーを取り外し連絡内容を確認した。

地球の本社からのメールが一通。

ゼラニウム内からのメールが一通。

・・・ゼラニウム内からのものはA子に違いない。

俺とA子が直接交渉することは禁止されている。

しかし交渉役の人工知能の紫さんがA子に協力している今、どうしたら良いか。

とにかく地球からのメールを開いた。


地球からのメールをざっと読むと俺が隔離されたことは把握しているようだ。

ああ、あれから24時間以上すぎたか。

主な内容は水のリサイクル方法。

そして救助船を出すかどうか検討しているが難しいとのこと。

紫さんの再起動方法を検討していること。

あとは・・・。

俺がA子と直接交渉しないようにという念押しだ。

なんだって?

交渉しないでどうやって食糧を得るんだ?

ふざけている。

俺にだって交渉カードはあるぞ。

体育館の切り離し作業は俺のような熟練した技術が必要だ。

切り離しをしないままで地球には戻れないだろう。

A子が俺を隔離して殺さないのはそのためだ。

彼女が紫さんに指示すれば後部ハッチが開いて一気に空気が抜ける。

そうなれば俺はすぐに窒息して命を落とす。

それを彼女がしないのは俺を利用したいからだ。

俺の方も食糧を得たいし隔離をやめてもらいたい。

会社側だって事業が進行するのだから悪い話ではないだろうに。

なのに俺がA子と交渉するのをやめろとはどういうことだ。


もう一通のA子からのメールを開こうか迷った。

本社にこのメールを開封して良いか許可を得るには通信が24時間はかかる。

今の状態でこのまま24時間は待てない。

しかも24時間後に許可が出るとは限らない。

体力的、精神的に耐えられない。

俺は小型ディスプレーを持ったまま冷凍睡眠装置を見た。

天秤にかけるわけではないが。


俺はA子からのメールを開封していた。

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