第71話 お菓子

牧師が第一体育館のエアロックの件について聞いてきたので答えた。

俺がそのエアロックから中に入れなかったことは重大事件といえる。

その時の詳細を”懺悔”させて詳細を事故調査委員会に送ることが牧師の仕事だ。

俺の記憶が鮮明なうちに語らせておきたいのだろう。


牧師「おふたりはテザー推進で第二体育館の屋上まで帰ってきたのですね。」


俺「そう。今から考えるとテザー推進は紫さんのアイディアかもしれない。」


牧師「洗脳の過程で人工知能からA子が助言を受けたということですか。」


俺「可能性。A子の発案かもしれない。」


牧師「ではその件は保留にしましょう。」


俺「それから屋上に着いた俺とA子は互いのワイヤーを外したんだ。」


牧師「つまりそれは、A子を第三体育館に再び隔離するためですね。」


俺「そう。第一にA子を入れてしまうと大量の食糧を奪われてしまう。」


牧師「わざとA子を第一に入れて制圧することは考えなかったのですか?」


俺「いや。本社はA子との同室を禁止してる。同室すれば殺される。」


牧師「なるほど、それは宇宙服同士でも?」


俺「宇宙空間ではフワフワ回転するだけだが機内では違う。」


牧師「? 分かりません。どういう意味ですか?」


俺「壁がたくさんある室内では宇宙服を着ていても押し付けて拘束される。」


牧師「もし機長が拘束されるとどうなりますか?」


俺「ヘルメットを脱がされて首を絞められるだろ。」


牧師「その技術を彼女は持っていますか?」


俺「彼女の格闘術と知識をもってすれば出来る。」


牧師「機長、お疲れでしょう。少し休憩しましょう。」


俺が第三体育館に隔離されてから、かなりの時間が過ぎた。

いつまでもこの宇宙服を着ているわけにはいかない。

洗脳された紫さんが後部ハッチを制御してる現状では着ていた方が良いが。

この瞬間にも第三の後部ハッチ全開で空気を抜かれるかもしれないから。

宇宙服を着ていれば最初のインパクトは耐えられる。

しかしどのみち宇宙服の空気リサイクル機能が限界になれば窒息する。

俺に利用価値がまだあればA子は俺を生かしたままにしておくはずだ。

宇宙服を脱いでロッカーにあったグリーンの服に着替えることに決めた。

ヘルメットを脱ぐと甘いお菓子のような女の部屋の匂いがした。

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