第60話 ゼリー

いつの間にか眠ってしまっていた。

目を覚ました瞬間、やってしまったと動揺して周りを見た。

あいかわらずA子は正面にいてフックも外れていない。

どうやらA子は反動を利用してゼラニウムに帰ることを断念したようだ。


眼下には惑星Tの黄緑色の台地が見える。

手を伸ばせば届きそうだがそれは錯覚だ。

はるか上にはゼラニウムの機体が白い点のように見える。

ヘルメット内の計測器は二人の高度が少し落ちていることを示していた。


ノドが渇いたので水を飲んだ。

宇宙服のヘルメット内にはチューブが2本ある。

一本のチューブは水が出る。

このチューブはリサイクル装置とつながってる。

尿や汗をろ過して飲料水に変える装置のおかげで水の心配は無い。

A子も同様、水だけは大丈夫だろう。

もう一本のチューブはゼリー状食品を吸うためのものだ。

ちゅちゅとゼリー状食品を吸ったが思った通り味はヒドイ。

乾パンなどの非常食は大量に食べないようにわざと味を落としていると聞く。

薬臭い。

防腐剤のせいか味も変だ。

地獄の底のような味というのは言い過ぎだが、子鬼ぐらいはチラチラ見えている。

長時間の船外活動の時に栄養補給をするためだからしょうがない。

普段は決して食べないが、遭難時にはありがたい。

遭難?

俺は今、遭難してるのか?


A子のヘルメットのソケットに俺のゼリー状食品をセットした。

彼女のいた第三体育館には食糧となるものは一切無かったはずだ。

ゼリー食品も彼女は持ってきていないだろう。

そのあたりは紫さんに聞けば一発で検索できるが、通信途絶だ。

これからゼラニウムに戻るにはA子の協力も必要になる。

貴重な食べ物を分け合ってこちらに敵意が無いことを示すのも悪くない。

幸い、ゼリー食品はかなりの量の準備がある。


二人のテザーの総距離とゼラニウムまでの総距離を計算した。

テザーをつないで伸ばしてゼラニウムに引っ掛けて戻る作戦だ。

しかしすぐに全く長さが足りないことが判明した。




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