第32話 仮名

①彼女は隔離しなければならない。

②もし同室している場合はすぐに他の区画に避難すべきである。


本社からの情報でモニターに映っているグリーンの手術着の女の身元が分かった。

女の名前は「A子」29歳女性。

仮名である。

A子は連続殺人事件で逮捕されて死刑囚になった。

彼女は死刑執行の前に自ら医療用の検体になることを希望している。

そして死刑が執行された。

記録では。


ハルカワ「死刑執行済み?」


俺「記録では。そう。」


ハルカワ「何かの間違いでは?」


俺「いや、死亡確認はしっかりと。直後に冷凍されて、ここまで運ばれている。」


今頃、地球では軽見部長がブチ切れているだろう。

冷凍睡眠装置「ひまわり」メーカーの陽野社に情報を出させたはずだ。

陽野社から医療機関と警察サイドへ問い合わせているようだ。

追加で上がってくる情報の中にはA子と医師の関係が報告されていた。

A子の薬物による死刑執行を担当したハリー・ライム医師が失踪している。

報告ではハリー医師が彼女に協力した可能性も指摘されている。

まさか薬物をすり替えることによって仮死状態でA子を冷凍したのか。

仮死状態で輸送機に乗せられて何かの原因で解凍された。

そしてA子は息を吹き返したとみるのが自然だ。


ハルカワ「ハリー医師。やってくれる。」


俺「まったく。」


ハルカワ「色仕掛けかな?」


俺「彼女、美人だからな。どちらが主導したか分からんが。」


ハルカワ「でも何で”A子”なんだ?」


彼女が仮名”A子”のままなのは不思議だ。

今はそれよりも連続殺人犯の死刑囚が第三体育館にいることが重要だ。

第三に通じる通路は一つだけ。

第二の右エアロックの封鎖をハルカワにチェックしてもらった。

その後に俺もチェックに行って二重に封鎖していることを確認した。


エアロックのハンドルはいつもより冷たく感じた。





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