第24話 フットボール

午前中は備品の確認など軽い作業をハルカワと協力して行った。

午後からはオフなので食事の後はキッチンでフットボールの映像を見ている。

ハルカワは試合に飽きてきたらしい。

彼は人工知能「紫さん」とスピーカーを通して会話してる。

俺は面白いのでそれを聞いていた。


ハルカワ「そもそも何でヒトが乗ってるんだ?」


紫さん「はい、ハルカワさん。無人でも航行出来るという意味ですね?」


ハルカワ「うん。無人でもこの輸送機は大丈夫なのに。」


紫さん「数十年前、地球の無人航空機でトロッコ問題が発生しました。」


ハルカワ「トロッコ問題?」


紫さん「はい。人工知能のジェット機で貨物だけを運んでいました。」


ハルカワ「人間の操縦者がいない輸送航空機か・・。」


紫さん「航空機はトラブルで市街地道路上に不時着することになりました。」


ハルカワ「もう市街地上空から回避は出来ないんだな?」


紫さん「はい。そのままならビル街に突っ込んでしまう状況です。」


ハルカワ「わかった。それで不時着できる広い道路を選んだと。」


紫さん「はい。2本の道路が候補にあがりました。」


ハルカワ「どちらに着陸しても航空機は助かる?」


紫さん「はい。一番近いA道路では2000人のパレードが行われていました。」


ハルカワ「え?そこはマズイ。」


紫さん「少し遠いB道路ではマラソンランナーが300人いました。」


ハルカワ「どっち選んでも死ぬだろ。地上の人は。」


紫さん「はい・・・。」


ハルカワ「それで航空機の人工知能はどちらの道路を選んだ?」


紫さん「・・・」


ハルカワ「AとB、どっちの道路?」


紫さん「選べなかったんです。」


ハルカワ「選べない? どういう意味?」


紫さん「人工知能はABどちらも選べなかったんです。」


ハルカワ「じゃあビルに突っ込むわけだが・・・まさか。」


紫さん「はい。ビル街で死者約1万人の大惨事でした。」


ハルカワ「本当かよ。」


紫さん「はい。残念ですが、あなたが生まれる前の本当の事故です。」


ハルカワ「そういう場合は人数の少ないB道路を選ぶべきでは?」


紫さん「そうですね。それ以来そのような判断基準が出来ました。」


ハルカワ「じゃあもう安心だな。」


紫さん「いえ。数年後にまた同じような事故が起きてしまったんです。」


ハルカワ「またトロッコ問題?」


紫さん「はい、多くの人命の損害を避けるために100人が犠牲になりました。」


ハルカワ「なんか・・・。納得出来ない話だな。」


紫さん「はい。当時も納得できないという世論が一般的でした。」


ハルカワ「それでどうなった?」


紫さん「はい。航空会社は人間の操縦者を乗せて判断させることにしました。」


ハルカワ「でも人間の方が判断を間違うかもよ?」


紫さん「はい。でも人間なら責任は負えます。」


ハルカワ「責任?」


紫さん「法的責任、社会的責任、道義的責任など色々あります。」


ハルカワ「なるほど。人工知能は刑務所に行けない。」


紫さん「はい。我々人工知能は道で石を投げられることもありません。」


ハルカワ「人間の機長ならば一家離散したり、社会的責任も負う。」


紫さん「人間が操縦していれば犠牲者の遺族は機長を恨めるのです。」



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