第19話 プリン

ハルカワ君が冷凍睡眠装置から目覚めて1週間が経過した。

陸軍所属というから、どんなやつかと思ったが普通だ。

普通の若者。

軍事訓練は受けているらしいが、いいかげんな行動もある。

彼はあまり小さなことに、こだわらない性格か。


いつまでもハルカワ君が床で寝ているのもかわいそうなので寝室を作った。

この第二体育館の後部、冷凍睡眠装置の横にテントを作った。

寝る時はその布製のテントの中で眠る。

いっそ冷凍睡眠装置の中で眠れば良いのにと言ったがそれは嫌らしい。


俺「プリン勝手に食べただろ?」

ハルカワ「プリン?食費は軍が払うって。」

俺「いやそうじゃなくて、個数に限りがある。」

ハルカワ「まだあるよ。」

俺「おい、あと18か月かかるんだぞ。」

ハルカワ「まあまあ、プリンだよ、プリン。」

俺「お前なあ、あの動物プリンは貴重なんだよ。」

ハルカワ「プリンは機長?」

俺「貴重、数が少ないって意味。特にアヒルさんのは。」

ハルカワ「そういえばパッケージにアヒルが書いてあった。」

俺「アヒルさんのは赤いチェリーが入ってる。」

ハルカワ「アヒルもうないの?」

俺「いや、まだある。」

ハルカワ「じゃあ問題ない。」

俺「ハルカワ君、きみは宇宙食のありがたみが分かってない。」

ハルカワ「・・・」

俺「・・・」

ハルカワ「ケチクセ。」

俺「あ?」


第三体育館の冷凍睡眠装置の中身は死体だと部長に言われた。

その後の追加情報で詳細が分かってきた。

実験主体は医療機関。

死体というのは正確には移植用の検体だ。

臓器提供者の遺体を凍らして運んでいる。

地球上ならば大怪我をしてもクローンや人工臓器でどうにかなる。

しかし惑星テラフォーミング本隊が現地で大怪我をするとどうにもならない。

医師を連れて行っても移植用の臓器がなければ意味はない。

そこで遺体を丸ごと冷凍して運び現地に準備するということだ。

皮膚から眼球、脳以外は全て移植可能なのだから丸ごと準備するのがベストか。

とはいえ隣の体育館に凍った遺体があると思うと良い気持ちはしない。



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