第14話 蟹

冷凍庫から大きなカニを出した。

この輸送機には冷凍した高級食材なども積んでいる。

いつか食べてやろうと思っていたカニの値段は一匹100万円だ。

カニの数え方は一匹じゃないらしいが、それはこの際どうでもいい。

地球から月面基地までの輸送費などで食材は高価だ。

食べた分は後で清算されて俺が自腹で払うことになっている。

100万円のカニ。

隕石を回避して1000万円の仕事を終えたこのタイミングしかないだろう。

今日は寝ないで朝までカニ祭りだ。

照明を落として中央部のキッチン付近だけを照らした。


大きなカニの食べ方は分からないがしばらく常温で解凍をする。

そのあとレンジで温めれば食べられるだろう。

カニを机に置いておくのもつまらないので頭の機長の帽子の上に乗せた。

両面テープで俺の頭の帽子の上にカニ氏が鎮座している。

人工知能には今後24時間は呼び出しをするなと言っている。

隕石の接近と火災と致命的な故障以外はブザーを鳴らすなと念押した。


体育館の中にハウスミュージックを大音量で流した。

そういえば俺が服を着ている理由が見当たらない。

もう今日の仕事は終わって明日も完全オフだ。

俺はオフの解放感を全力で味わうために服も脱いだ。

この輸送機ゼラニウムは俺しか乗っていない。

広大な宇宙では御近所さんが訪ねてくる距離でもない。

誰にも迷惑がかからない派手な祭りをやろう。

単調な毎日なのだから。

シャツとズボンを脱いでパンツはどうしようか迷った。

またこの前みたいに寝てる途中にフワフワ浮いてしまうリスクを考えた。

パンツを脱いで投げれば無重力でも進むことが出来る。

というわけでパンツと機長の帽子というスタイルにした。

そろそろ帽子の上のカニが解凍したか確認のため指で触ったがまだ冷たい。


音楽に合わせて踊りながら頭の上のカニが解けるのを待っている。

ふと体育館の後部を見ると暗闇に見知らぬ男が立っていた。




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