第13話 シミュレーター

紅茶とクッキーで空腹をごまかすことにした。


俺は輸送機ゼラニウムの第二体育館にいる。

この輸送機は体育館のようなモジュールが3つ並んでいる。

今は居住区にあたる第二体育館の前部のコックピット内にいる。

今日は朝からコックピットのシミュレーターで操縦訓練をしている。

隕石が接近した時などに軌道を変える訓練だ。

俺の左には人工知能「紫さん」が丸テーブルのように設置されている。

「紫さん」から課題が出されるのでコントローラーを握ってクリアした。


昼前にブザーが鳴った。

「紫さん」から緊急報告が来た。

この輸送機に隕石が接近しているということだ。

衝突危険度8ということで輸送機の軌道を変えて回避をすることになった。

シミュレーターでの訓練は全て中止されて、本番にそなえる。

衝突は6時間後という報告のため少し余裕がある。

人工知能の軌道計算や再計算が済んだのでさっそく軌道を少し変えた。

どうやら上手く変えられたようだ。

だが6時間後の予定時刻までは俺はコックピットを出られない。

念のため、さらなる緊急事態に備えている。


このコックピットは気密構造になっていて独立した生命維持装置がある。

食事もスナック的な保存食と熱いお湯ぐらいは作れる。

紅茶とクッキーで空腹をごまかすことにした。

本来はお湯しか作れないが味気ないので紅茶を以前持ち込んでおいた。

熱い紅茶をすすりながら人工知能と会話をした。


俺「たしか軌道変更作業は日給が高かったな?」

紫さん「はい機長、日給1000万円です」

俺「1000万円!ほほう、明日から少し作業をさぼって遊べるなあ。」

紫さん「そうですね。でも必要な作業はやってもらいますよ。」

俺「分かってるよ。ところで話があるんだが。」

紫さん「はい、機長なんですか?」

俺「もしも俺が軌道変更する前に気を失っていたらどうなっていたんだ?」

紫さん「はい、その場合は私が軌道変更をして隕石を回避します。」

俺「ふーん。じゃあ俺がやらなくても良かったわけだ。」

紫さん「いえ、私は機長のバックアップです。」

俺「バックアップねえ。紫さんは俺が寝てる間も隕石の監視をしてるわけだろ?」

紫さん「はい、24時間監視しています。」

俺「眠くなったりしないの?紫さんは。」

紫さん「はい、私は眠りません。疲労も感じません。」

俺「へー。うらやましいな。」

紫さん「そうですか?」

俺「うん。まあ、そうでもないか。」

紫さん「そうですよ。」

俺「そうかな。」


紫さん「・・・・・・・」

俺「・・・・・」

紫さん「・・・・」

俺「寝た?」

紫さん「いえ、人工知能は眠りません。」


俺「ここのモニターでカメラ映像を見れるよな。」

紫さん「はい機長、外部と内部カメラ映像を全て見れます。」

俺「内部も24時間監視してるわけ?」

紫さん「はい、火災の心配があります。」

俺「火事か。」

紫さん「人気の無い第一と第三体育館のカメラも監視中です。」

俺「つまらん映像だろ?」

紫さん「変りは無いですね。」

俺「そうだな。」

紫さん「今、隕石衝突予定時刻を過ぎました。回避成功です。」

俺「祭りだ。」

紫さん「祭り?」

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